あの人はとうとう冷たい土の下に。
とうとうユウリィ・アートレイデは世界にひとりぼっちになってしまったのだった。
真新しい墓石はひどく冷たい印象をユウリィに与える。
あの人はいつだって、苦しんでいた。
孤児院の時も、大人になってから再会した時も、彼は苦しみ続けていたのだ。
そしてまた今も彼は苦しんでいた。
わたしに出来る事は何だろう、と自問する。
何が出来たとしても、本当に遅すぎるのだけれど。
またぽろりと涙が零れた。
何度も何度もこうして泣いたけれど、涙は止め処なく止まる事は無かった。
あれから何日も泣き通しだったが、それでもなお深い悲しみの底をユウリィは漂い続けているのだった。
それでも、と思う。泣いてばかりではいけない。
溢れる涙を右手でそっと拭い、左手に抱えた花束を墓の前に置いた。
静かに、祈った。
彼がトルドカの苑で安らかに暮らせる事を。
彼が痛みから解放される事を。
ユウリィがクルースニクに出来る事は、これしかないのだった。
義父に教わったその聖句を、恐る恐る口にした。
こんな気持ちで聖句を暗唱するのは初めてだった。
目を閉じて、ひたすらに祈った。唱えた。
涙混じりの聖句は風に流されてゆく。
そうだ、と思い出す。
泣き顔より笑顔を。嗚咽より聖句を。
彼が求めるのはそれであるべきだった。
「怨嗟の囁きを、聖句の詠唱によって解き放ちましょう……わたしは安らぎを祈ります。あなたは心にぬくもりを感じて下さい。きっといつか、トルドカの苑に導かれましょう……」
例え世界にひとりぼっちでも。
ひとりぼっちじゃない、と確認する。
ここからでは見えないけれど、自分にはこの人がついていてくれるのだ。
今はまだ、悲しいけれど。
でも、泣いてばかりではあの人に笑われてしまう。
生きるのだ。
たまに泣く夜を、許してほしいから。だから今だけ、何とか泣きやむから。
ちゃんと、ひとりでも生きるから。
「……ありがとう、」
小さく呟いて。何とか微笑みを作ってみせた。
瞼の腫れ上がった笑顔は見られたものではない事には違いないが、きっと彼は喜んでくれた筈だ。
「会えて、良かったです、」
それも本心だった。
イルズベイルで一旦別れた彼と、一瞬ではあったけれど会う事が出来たのだ。
全く会えなかったより、ずっとずっと良かった。
「……ありがとう……」
ユウリィは墓に歩み寄ると、跪き口付けた。
ほろり、また一筋流れた涙が口の中に入る。
それは別れとこれからの挨拶。
「……また来ます」
ごしごし瞼を擦ると、ユウリィは振り返らずに立ち去った。
少し冷たい雨風が、ユウリィの頬を撫でた。
……それは、男の人の掌のように、ユウリィには思えたのだった。
おしまい
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