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ある日の、夕食も終わった頃。いつもの通り、ティトレイ特製のごちそうをぺろりと平らげたマオ。けれど、アニーは今朝から気にかかっていた。今日のマオはどうも様子がおかしい。いつもより食べる量が桁違いに少ないし…人知れず遠い目をしては溜め息を吐いている。 今もなお、誰にも気付かれないようにこっそり溜め息を吐いていたマオを見つけて、アニーはそっと話し掛けた。 「マオ、一体どうしたの? 今日一日中、ずっと上の空だったみたいだし…」 「アニー…」 元気が無さそうに、しかし妙に熱っぽい視線をアニーに送るマオ。その視線をまともに喰らって、何だかドキドキしてしまう。年下なのに、年下だけど、何だか心臓がばくばくする。 「アニー…少し話があるんだけど、いいかな?」 「いいわよ、話って何かしら」 「実は、ちょっと前から考えてた事があるんだ」 「うん…?」 話が何を指すのかは分からないが、アニーは彼の真向かいを陣取って座った。 きっ、と鋭い目つきになるマオ。熱の篭った、そんな熱心な目でじっと見つめられ、アニーは何も言えなくなってしまう。隣で動向を見守っていたティトレイが、その安穏でない雰囲気に気付いて慌てて介入して来た。 「お、おい、お前ら…」 「ティトレイは黙ってて!」 マオはアニーに向けた視線よりずっと怖い気を込めた、恨みがましい視線をティトレイに送った。滅多にそんな負の感情を面に出さない分、ティトレイはその一睨みでたじたじと萎縮してしまう。それを横目で眺めながら、アニーははふ、と溜め息をついた。自分だってどうしてマオにこんな目で見られるのか分からないのだし、ここはティトレイに代理としてマオと戦ってもらいたかったのに…肝心なところで役に立たない。 そしてまたマオはアニーを見つめる。こんなに一心に見つめられた事が無いから、アニーは赤面してしまうのを隠せなかった。もしやひょっとしてこれはアレではないのだろうか。いわゆる少女と少年がひとところにいて「話がある」のだとすればそれはひとつしかない。もやもやと深い想像までしてしまって参ってしまいそうだった。マオの事は大好きだけれど、自分にはちゃんと思いを寄せる人がいる。彼はガジュマだけど、そんな事とはもう関係なく大好きなのだ。この前思わず感極まって抱き着いてしまったのを気付かないマオでもないだろう。こう見えて人の心理を量る術に長けたマオが、アニーの本心に気付かないわけもない。――そういえば、そのガジュマの元隊長は何処に行ってしまったのだろう。 「アニーには…さ…」 「う、うん」 来た。ついに来てしまった。初告白だ。どきどきしながらその瞬間を待ち侘びる。 「ユージーンの事、好き?」 そんな直球な。彼の事は好きは好きなのだけれど。勿論大好きだけれどここはマオ的には「でもボクの方が好きだよね?」というところなのだろうか。でもそれだったら自分は「ごめんなさい。わたしはユージーンの方が好きなの」と答えなければならない。マオが傷つく姿は見たくなかったが、真実は変えられない。アニーがその質問にまごついてしまって答えられないでいる間に、マオはなおも畳み掛ける。 「どれくらい好き? ボクもユージーンの事大好きだけど、それに勝るくらい好き? それを意識したのっていつ?」 「え…えっと…」 意識したのは、いつからだっただろうか。最初は仇だと思っていた。滅ぼさなければならない罪悪そのものだと。けれど真実を知って以来、ユージーンがひとりで有りもしない罪をかぶっていたのだと知ってから彼に対する気持ちは随分と変化した。 「でも、ボクの方がユージーンとの付き合いも長いし、ボクとユージーンの仲には割って入れないんだからね!」 「…あれ…?」 あれ? 今聞こえて来た言葉が信じられなくて、アニーは首を傾げた。 「マオの言ってるの…って。ひょっとして…」 「もう、ここまで言わなきゃ分かんないの? だから、アニーはユージーンを取らないでって言ってるんじゃんか!」 「そ…そっちなのね…!」 がっくりと膝をつきそうになるのを、何とか堪えた。それでも心の中ではツッコミを入れずにはいられなかった。紛らわしい真似しちゃって、それが言いたかったのね! 脳内で「アニーを巡ってユージーンとマオが戦争を起こす姿」を延々シミュレートしていた分、衝撃も大きかった。マオを振らずに済んで安心したような、それはそれで面白くないような。 マオの言わんとする事が飲み込めてきて、そしてそれと同時にマオの言い分にかちんときて、アニーは思わず身を乗り出す。今の言葉は聞き捨てならない。気持ちは年月じゃない、と個人的には思っている。いくらマオとユージーンが長い付き合いでも、アニーが真剣な気持ちでユージーンを思い、またユージーンがそれに答えたのならそれこそマオの入り込める隙間は無くなる。 かちんときたついでに、自分ひとりの勘違いも手伝って、アニーの語尾も荒くなる。 「ちょっと待ってよマオ。そんな事無いと思うわ。それって嫉妬なのかしら。みっともない。わたしとユージーンが仲いいのが面白くないってはっきり言ったらどうなの!」 実際、アニーの試練を終えて以来、ユージーンとアニーの関係は蜜月そのものだった。それこそマオの付け入る隙間が無い。アニーが戦闘中に怪我をすれば治療するのはユージーンの役目で、ユージーンが怪我をすれば治療するのはアニーの役目であった。他の言葉で言えばラブラブ、他の言葉で言えば二人の世界、他の言葉で言えばエトセトラエトセトラ。 「わたしとユージーンの世界に入ってこられないのが悔しいんでしょう!」 「そんな事言って、アニーだってボクとユージーンが戦闘中に息ぴったりのコンビネーションを見せるのが面白くないんでしょ!」 「何ですって!」 「そっちこそ!」 「お、おい、お前ら…」 「止めときなさいよティトレイ。あんた、今の二人を仲裁出来る?」 「その通りだ…。止めておけ。せいぜい無視されて終わりだからな…」 「ちょっ、お前ら薄情だな!」 マオとアニーの睨み合いを何とか止めようとするティトレイと、それを諌めようとするヒルダとヴェイグ。それを知ってか知らずか、アニーとマオのやり取りはなおも続く。 「この際だから、ユージーンがどっちのものなのかはっきりさせようよ!」 「望むところだわ!」 「ユージーンは渡さないんだからッ!」 「わたしだって、マオに譲る気なんてさらさら無いんだから!」 「どうかしたのか? 二人で喧嘩するなんて珍しいじゃないか」 そんな二人の口論に気が付き、近付いてきたのはユージーンだった。まさか自分がアニーとマオの喧嘩の原因になっているとも知らず、呑気なパパ口調で二人に声を掛けたユージーン。 その背後でヒルダが「あちゃー」と呟いて頭を抱えた。これから何が起こるのは、予知したようだった。 「ユージーン…あんた、今まで何処に行っていたんだ。お前の所為で今マオとアニーが大変な事になっているんだぞ…」 「何を言っている。お前たちのテントを張って来た俺に言う事は他に無いのか…一体何なんだ、この険悪な雰囲気は。それに俺の所為って、一体何が起こってるんだ」 「…」 「…」 マオとアニーはしばらく互いの顔を見つめあい、そして突然その視線はユージーンに向かった。あまりにも真っ直ぐな2対の瞳に見つめられてたじろぐ40歳。 二人は同時に声を放つのだった。 「どっち?!」 そしてその日から、マオとアニーの熾烈な戦いが始まったという… おしまい |
■あとがき |
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