小ネタ


作品はそれぞれ下に行くほど新しいです。

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■こたねね/ほのぼの/Empires同勢力設定

「小太郎、いよいよ出陣だね!」
 出陣する事になった小太郎に、ねねはいつものようにはきはきと元気良く励ます。
「怪我するのも程々に、だけど精一杯ガンバってね!」
「フ…、ガンバってね、か…」
 珍しく、口の端に笑みを滲ませる小太郎。ねねはきょとんとしてそれを見つめた。どの種類の笑みなのか、分からない。ねねの応援を馬鹿にしているのか(だとしたらおしおきだが、それは多分無いだろう)、そんな事言われなくても頑張るというどこぞの石田三成的な笑みなのか。でも、まあいいや、と思う。応援されて純粋に嬉しいのだろうと解釈する。小太郎はそういうところが、割と純粋なのだ。
「あたしも付いていこうか?」
「邪魔だ」
 ふと心配になって相談してみるが、すげなく却下を食らう。戦場でちゃんとご飯食べてるかとか、ちゃんと怪我したのを治療しているかとか、小太郎の母親を自称する身としては気になってどうも取り越し苦労をしてしまう。小太郎は強いからそんじょそこらの武将ではとても太刀打ちできない事も分かってはいるのだが、それとこれとは別問題。
「やっぱり付いていくよ、あたし、小太郎の事心配だし」
「来るな、と言っている。うぬがいると、集中出来ぬ」
「何よ、もう。あたしが心配してあげてるのに!」
「勝手に心配でも何でもしていろ」
「勝手にしてるわよ!」
 本当に小太郎は分かっていない。とねねはぷんぷんしながら彼を叩いた。
「分かってないわね!」
「…分かっていないのは、うぬの方だ」
「わけ分かんないわよ!」

 出陣も間近だというのに、口論はしばらく止みそうに無かった。


おしまい

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■こたねね/ほのぼの/Empires同勢力設定

「んー…」
 こてり、と二の腕に感じる僅かな重みと、隣が漏らした声にふと小太郎は気付いた。見れば、隣で本を読んでいた筈のねねがいつの間にかこくりこくりと船を漕いでいる。腕に重みがかかる度、ねねは「寝てはいけない」と判断するのか一瞬だけ目覚めるのだが、それも一瞬だけ。本格的な眠りに入るのも時間の問題だろう。
 眠たくなるのは、小太郎にも分からぬでもない。今は昼中、こうして二人で縁側でぼんやりしていると陽射しが温かく、ついうとうとしてしまう。尤も小太郎の場合は忍びとして修行を積んでいるのでこれしきで眠たくなったりはしない。元より熟睡など何年もしていない。そのようにいつでも注意深くしていいなければ、風魔の棟梁などは務まらぬ。だが小太郎の前では気を許している(らしい)ねねは、時折こうして隣で寝付く事があった。同じ忍者とは思えぬ注意力の欠如である。小太郎は生憎とねねの隣であっても気を緩めた事は無い。別に相手が誰でも同じ事である。気を許せば、何処から刺客が来るか分からないからだ。
 こくりこくりと揺れるねねの頭の動きを面白く思いながら見つめていると、とうとうねねは小太郎の腕に寄りかかってそのまま動かなくなった。ついに本格的な睡眠に入ってしまった。
 起こすと厄介な事になりそうだ。
 小太郎はそう判断すると、ねねをそのままにさせておいた。ここでねねを起こして、また要らぬ問答にしたくはない。「折角気持ちよく寝てたのに、どうして起こすのよ!」などとガミガミ言われる未来が簡単に描けたからだ。…そっとしておいたのはけして親切心からではない。面倒事を回避したかっただけだ。
 これで片腕が使えなくなった。不便極まりない。それに行動だって制限された。ねねが目覚めるまで、ここにい続けるしか方法は無い。それに急に刺客が現れないとも限らない。寝起きのねねが相手になれるとは思わない。庇いながら戦う必要があるだろう。面倒を避けるためとはいえ、いい事はひとつも無い。
 だが、無防備な寝顔で寝入るねねの表情を見るのは、どうしてか悪くなかった。
「我の中にも混沌がある…か。フ…愉快なものだ」
 この気持ちは、一体何なのだ? 小太郎にも分からない。ただ呟くのみだ。
「我の分も、とくと眠るが良い…」


おしまい

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■こたねね/ほのぼの/忠勝外伝

 耳の奥でまだじんじんと響いている、快い声。小太郎は忠勝と相対しながらも、先程自分に向けられた発言に戸惑いのようなものを感じていた。
 それは、小太郎が忠勝と向かい合う直前に、ある女性が忠勝に負けた時に小太郎にくれた声援のひとつだった。小太郎の側に「不憫だから」というそれだけの理由になっているんだかなっていないんだかな理由で小太郎にくっついてきた、とある人妻。
 ねね。
 忠勝にぼろぼろにされて、体中に切り傷擦り傷を拵えても尚その笑顔はそのままで、ねねは小太郎に優しく告げたのだった。
『ガンバってね、小太郎』
 ころころと鈴を転がすような。慈愛に満ちた、声。勿論小太郎にはねねがどんなふうに小太郎を見ているかは分からない。それが慈愛なのを、理解してはいない。けれど。
 吐息めいた、くつくつとした笑い声を漏らせば、忠勝は怪訝そうに眉を顰めた。小太郎の意味不明な笑いに影響されてか、蜻蛉切の刃先にに若干の迷いが出ているのを小太郎は見て取っていた。
「一体何がおかしい、乱波よ」
 小太郎はその質問には答えずに、ただ手を差し出した。自分の中での、戦いの合図。
「ガンバる…か。悪くない…かもしれないな」
 そして駆け出す。小太郎の篭手と忠勝の蜻蛉切が真正面から激しくぶつかって、二人はそのまま互いの力比べに入る。ぎりぎりと、火が出そうな程の力を込めて相手を弾き飛ばそうとする。
 小太郎は、涼しい表情を保ったままニヤリとすると言葉を放つのだった。
「悪いが…全力で行かせてもらう。我には…負けられない理由が出来たのだからな」


おしまい

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■こたねね/ほのぼの/Empires同勢力設定

「…え? あたしに、これを?」
 目の前に差し出された金平糖に、ねねは受け取るより先にきょとんと首を傾げた。人間らしからぬその大きな掌の上にあったのは、懐紙に包まれた黄色や橙色の金平糖であった。
 小太郎は無言で頷いた。ねねはまだ分からぬ様子で頭の上にたくさんの疑問符を並べている。
「やる」
「もぉ、人に何かをあげる時は『あげる』でしょう! 言葉はきちんとしなきゃダメじゃない」
「…」
「こぉら、無視しないの」
 こつん、とこめかみの辺りを拳骨ではたかれる。といっても愛情入りなので、痛くも痒くも無い。お仕置きが終わったあと、ねねは顰めていた眉を元に戻すと、受け取った金平糖をありがたそうに両手でおし抱いた。
 次の瞬間ねねの顔に浮かんだのは、紛れも無い笑顔だった。
「でも…あたしにくれるんだね。嬉しいよ、小太郎。大事に食べるからね」
「好きにしろ」
「そんな可愛くない事言っちゃって! でも、南蛮のものなんてどうやって手に入れたんだい?」
「うぬには関係無かろう」
 言ってから、少し冷たすぎる言い方だったかという思いが一瞬掠める。けれど特にねねは気分を害してはいないらしかった。
「すごく嬉しいけど、無理しちゃダメだよ? 高かったんだろう? ――まさかとは思うけど、何処かから盗んじゃいないだろうね?」
「なぜ我が、そこまでしなければならない」
 たかがねねにものをやる程度の事で、いちいち盗みなどするわけがない。馬鹿にした意味も込めて口の端で笑えば、返って来たのは本当の微笑みだった。
「だよね! やっぱり小太郎は、そんな悪い事したりしないよね! あたし、信じてたけどやっぱり嬉しいよ。じゃあ、折角だから小太郎も食べていく? あ、お茶入れてくるね。ゆっくりしていくでしょ?」
「…む」
 ――しまった。
 つまり、ねねは小太郎が犯罪を犯さなかったことを喜んでいるらしかった。ねねごときに、と思って否定した発言がかえってねねを喜ばせる結果になったことを、小太郎は複雑な気持ちで受け取った。悪くは無い、けれど何処かくすぐったくもある。
「ほら、小太郎! 何のお茶が飲みたいの、言ってごらん!」
 台所でねねが騒いでいるのが聞こえてくる。答えるまではうるさく喚きたてるのだろう、小太郎は仕方なく声を上げた。本当の事は隠したままで。

 生まれて初めて、人に贈り物なんてした。


おしまい



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