17cm


 シャーリィが、ここに帰ってきた。自分の隣に。
 隣でいつも微笑んでくれるシャーリィ。その姿があるだけで、セネルはもっとずっと強くなれる気がするのだった。彼女を守る。その意志が、セネルを強くするのだ。
 シャーリィと完全な再会を果たすまでに、悲しい別れがたくさんあった。それだけじゃなく、種族の違いという二人にはどうしようもない問題がある。それでもセネルには、シャーリィと離れて暮らす世界なんてのは想像しようもないのだった。
 今、彼女が隣にいてくれる。それが嬉しくてたまらない。この小さな存在を決して離すまいとセネルは固く心に誓うのだった。
 今日は、というと。用事があるから、とウィルに呼び寄せられたセネルとシャーリィ。今、彼等は集合場所に指定された噴水広場へと移動するところだった。ミュゼットの家へシャーリィを迎えに行って、そこから一緒にてくてくと歩いているところだった。離れ離れで暮らす事に違和感を感じないでも無かったが、お互いがお互いの気持ちにとっくに気付いているのに兄妹ごっこを続けるのも変な話だとシャーリィにそれとなく諭され、彼女に従うしかなかった。こういうところでは、彼女の主張には逆らえない。結局セネルはシャーリィの意見には反対出来ない弱いところがあるのだ。
 ともあれ。左側にほんのりと感じる熱が懐かしい。昔からシャーリィは、自分と適度な距離を置いていてくれる。近付き過ぎる事も無い。その代わり、心配になるほど離れる事もやはり無いのだ。
 触れそうで触れられない、今はどちらかというとその距離をじれったく思っていると、シャーリィがため息をついた。
「あーあ…」
 隣で小さなため息をつくシャーリィに、セネルが気付かないわけがない。彼女はセネルより少しだけ歩くのが遅い。天性ののんびり屋という事も理由のひとつだけれど、今はそのため息の原因が彼女の足を鈍くさせているらしかった。
 セネルは立ち止まると、シャーリィが追いついてくるのを待った。
「何だ? 何か困った事でもあったのか?」
「ううん…そうじゃないんだけど」
 小さく、弱弱しく首を振るシャーリィ。伏せた睫が長いのに、つい見入ってしまう。
「だけど?」
 シャーリィは言いにくそうにしている。そんな事、気が付いている。だからこそ放っては置けないし、彼女に悩みがあるなら全部聞いて、楽にしてあげたいのだ。それが傍にいる者の努めだと、思うから。或いはあの時彼女の気持ちを最後まで聞いてやれなかった罪滅ぼしから来る感情かもしれないけれど。
 もう一度シャーリィは嘆息すると、すっとセネルを見遣った。
「お兄ちゃん、また背伸びたでしょ」
「そう…か?」
 何を言い出すかと思えば。背? とセネルは首を傾げる。
 言われてはたと気付く。確かに前よりもシャーリィを低く感じている。どうも彼女が小さいな、と思ってはいたが自分が大きくなったとは思いも寄らなかった。
 シャーリィが攫われてからというもの、比較対象がいなかったから感じた事など無い。それでもこうして相対してみると彼女の主張はどうやら正しいらしい。
「気付いてなかったの?」
「ああ、全然」
「そっか…」
「何だ? でもシャーリィだって小さい方じゃないし、俺には平均くらいに思えるけど、それじゃダメなのか?」
「例えば平均でも、それじゃダメなの。お兄ちゃんと並びたいのに、どんどん差が開いてくばっかりなの。お兄ちゃん、まだ伸びてるでしょ。でもわたしはもう成長止まってるもの」
「ふーん」
 適当に打った相槌に、シャーリィは憤慨したらしかった。肩をいからせ眉間に皺を作りセネルに詰め寄った。たじたじ、と汗をかくセネル。どうやら地雷を踏んでしまったようだ。
「ふーんって…わたしには、とっても重要な問題なんだよ」
「そ、そうか。そりゃ、悪かった」
 はあ、とまたため息ひとつ。最後の台詞は独り言になっていた。
「お兄ちゃんといつまでも並んでいたいのにな…」
 いつかは、追いつけなくなる日が来る。セネルはそんな事とうに理解しているつもりだが、シャーリィはそうではないらしい。
 ぶつぶつと文句を垂れるシャーリィを見ながら、セネルはふと笑みが浮かぶのを覚えた。メルネスとして大人たちと過ごす事が多かった所為か、いつもはセネルより大人びた発言の目立つシャーリィだけれど、こんなところはしっかり15歳だ。
「だけど…、シャーリィが俺くらい大きくなったら、困るな」
「どうして?」
「抱き締めた時、さまにならないだろ」
 見る間に、シャーリィの頬がきゅーっと赤くなっていく。きっとシャーリィの脳内ではものすごくラブラブな事が起こっているに違いない。どこまで想像したのやら。
 …実行したいのはやまやまだが、生憎ここには人の目もある。一般人に見られるだけならまだしも、ノーマ辺りに見られたらあっという間に噂が流れて(しかもしっかり尾ひれ付き)一巻の終わりだ。
「かといって小さすぎも、困るな。抱き締め甲斐がなくて」
 シャーリィは真っ赤になってまごつきながら、まごまごとセネルの言葉を受け止めていた。
 両手の人差し指の先同士をくっつけて、つんつんしている。
「…つまり、今のわたしがちょうどいいって事?」
「ま、そういう事。結局、小さいシャーリィも大きいシャーリィもどっちも好きだけどな」
「お、お兄ちゃん…」
 その時、お互いの手の甲が、一瞬だけ触れ合って。
 セネルもシャーリィも、互いの手がものすごく熱い事に気が付いた。
 熱。本当はこれぐらいじゃ足りないくらいだけれど。今は、とりあえずこれで満足する事にしよう、とセネルはぼんやり考えた。
「そう…だね。今のままのわたしで、お兄ちゃんの傍にいるから」
「そうだな。俺も俺もままで、シャーリィの傍にいるよ」
 二人して。同時に手を握り、指を絡めて。
 そのまま二人はウィルの家へと駆け出した。

「でも、やっぱりもうあとちょっと身長欲しいなあ」
「…お前、ちゃんとさっきの話聞いてたか?」


おしまい


■あとがき
ここまで読んで下さってありがとうございました。
キュー! うちのセネシャリがセネルが攻め攻めです。
シャーリィは受けにし甲斐がありますよね!(鼻息荒く)
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