メルはいつも、アンジェリークが来てくれるとすごくすごく嬉しいんだ。
アンジェリークはいつもお昼を過ぎた頃にね、そうっとカーテンを押しのけて入ってくるんだよ。
だからいつもメルはお昼ご飯を食べ終わるとそわそわしちゃうの、早くアンジェリークが来ないかなって。
カーテンを押さえた時に、アンジェリークの細い指先がちらっと見えるとどきどきしちゃうの。
どうしてかなんて、メルはよく分かっているよ。だってメルはアンジェリークの事大好きなんだもん。
好きな人に会うとどきどきするんだって、サラお姉ちゃんが前に言ってたよ。
「メルさん、こんにちは」
「こんにちは、アンジェリーク!」
アンジェリークはいつでもにこにこしてる。
育成ではちょこっとレイチェルに負けてるみたいだけど、そんな時でもいつも笑顔を絶やさないんだ。
そういうところ、メル、羨ましいなって思ってて……メルはいつもにこにこしてるなんて出来ないから。
だって、負けてるのに。メルだったら絶対しょげてると思う。
でもアンジェリークはどんな時でもへこたれないんだ。いつも前を向いてて、とっても素敵な女の子なんだよ。
「今日はどうするの?」
アンジェリークにつられて、メルもにこにこ。
アンジェリークの笑顔には力があるみたいだね。不思議。
何となくこういう時、女王になるのはアンジェリークじゃないかって思うよ。
レイチェルは才能があって……自信があるみたいだから殆どここには来ないし、ひとりで何でもこなしちゃうのはすごいって思うけど。
でも、これからの世界が求めているのはアンジェリークみたいな人を幸せにする力を持つ子なんじゃないかなって思うよ。
才能は無くても。人を幸せにする力がある方を、宇宙は女王に選ぶのじゃないかな。
メルは、アンジェリークに女王になってほしいと思ってるよ。
「あのね、メルさん」
アンジェリークはもじもじと、何か言いにくそうにしてる。
「どうかした?」
「あのね、……おまじないをしてほしいんです」
「うん。誰と? あ、分かった、アルフォンシアとでしょ」
アンジェリークはふるふる首を横に振ってる。違うんだ?
てっきり、育成が上手くいってないからその挽回のための作戦だと思ったんだけど。
アンジェリークの悲しげな、それでいてどっか追い詰められてる目に、メルはちょっとびっくりしたよ。どうしてあなたは、そんな顔をするのかな。
伏せた睫毛が眩しくて、何だかメル、あなたを真っ直ぐ見られないよ。
「ううん、そうじゃなくて、オスカー様と」
「え。……」
耳を疑うってこういう事なのかな。メル、あなたの言う事が一瞬分からなかったよ。
別に。守護聖様たちとおまじないをしちゃだめなんて決まりはないよ、でもね、……アンジェリークがそういう事を望むなんて。ちょっと意外。
アンジェリークは、オスカー様の事が好きなのかな。
心臓がつきんと痛んだ。サラお姉ちゃんの言ってた事を思い出すよ、「恋をしてる女の子はきれいなのよ」って言ってた事を。
そっか、だからアンジェリークは可愛いんだぁ、なんて考えて自己嫌悪。
メル、アンジェリークの事が好きだけど、……アンジェリークはそうじゃないんだね。
メルはアンジェリークの事が好きで、アンジェリークはオスカー様の事が好きなんだ。
みんな、片思い。
「あの、メルさん。……やっぱりだめですか?」
メルがなかなか返事出来ないでいたら、アンジェリークは困ったような顔になって言ったの。
「そうですよね、守護聖様方とおまじないだなんて、不謹慎ですよね」
「ううん! そうじゃないの! そうじゃなくって、えっと、」
アンジェリークにそんな顔、させるつもりじゃなかった。
きっと心からオスカー様の事が大好きで、自分でもどうしていいのか分からないから、ここに来たんだね。
役に立つかどうかなんて分からないけど、メルのおまじないなら、って頼って来てくれたんだ。
メルはそれを感謝しないと。それで、協力しないと。
だってメルは、アンジェリークの事が大好きで。頼ってくれたら、嬉しいもん。
そしてそれ以前に、メルは占い師なんだから。
全ての困ってる人に救済を。いつもサラお姉ちゃんが言ってた事。
メルは、メルの出来る範囲でアンジェリークの事を守って、助けてあげたい。
「おまじない、出来るよ。ちょっとびっくりしちゃっただけ、えへ、ごめんね」
そう言うと、アンジェリークはほっと息を付いた。安心したみたい。
「あの、……でも。一個、質問してもいいかな?」
「何でしょう?」
「アンジェリークは、女王にはならないの?」
「え?」
アンジェリークはメルの質問の意味が分からなかったみたいだ。
「だって、女王になるのをやめてオスカー様の奥さんになる事を考えてるって事でしょ?」
「メ、メルさん……!」
滅相もない! とアンジェリークはぶんぶん首を横に振った。
「私なんかが奥さんなんて! それに、そんなつもりでおまじないに来たわけじゃ……っ」
その様子は、やっぱり可愛らしくて。図星、って表情が言ってた。真っ赤だよ。
オスカー様が羨ましいな、アンジェリークにこんな顔をさせる事が出来るなんて。
メルは、アンジェリークを真っ赤にはさせられない。
メルはアンジェリークの事大好きだけど、多分アンジェリークはメルの事……、そういう好きだとは思ってないと思うの。
一方通行。
でも、メルはアンジェリークに迷惑かけたくないから。
にこ、って笑うの。笑えてなくても笑うの。
「おまじない、するね」
メルは水晶玉を覗き込んだ。集中しなきゃ。でも、考えちゃうよ、アンジェリークの事を。
水晶玉には何にも写ってない。でも、目を凝らして何かを見出さなきゃ。
アンジェリークの未来が少しでもいいものになるように、おまじないしなきゃ。
メルは。
未来の事は分からないし、占い師として見ちゃいけない事になってる。
だから、見られない。アンジェリークの未来がアンジェリークの望むようないい未来になってるかどうか分からない。
でも。ずっと祈ってるよ。
届かなくても、ずっと祈ってるよ。
アンジェリークの未来に光が注いで、幸せになれる事をずっと。
おしまい
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