告白 |
よく晴れた日。空が高くて、澄み切った秋の午後。 白龍と望美、二人で海辺を散歩していると、ふと白龍が話しかけてきた。内緒話をする時のように望美に近付いて、耳元で囁く。 「神子」 「…っ」 声よりも先に耳に届く呼気に、望美は飛び上がりそうな程どきどきしてしまった。 未だに大きな白龍に慣れない望美は、過剰に白龍に近付かれる度に「男の人」を感じてしまってどぎまぎするのだが、白龍がそれに気付いた様子は無い。体つきはすっかり大人の男のそれなのに、白龍自身には恐ろしく自覚が無いのだ。無自覚で無邪気な分、下心が見え見えのヒノエよりタチが悪い。どうやって逃げたらいいのか、まるで分からないからだ。ヒノエの場合は拒絶したところで彼は何とも思わないだろうが、白龍は拒絶したらきっとすごく傷ついてしまうから。 何と言ってもほんの数日前に彼は突然大人になったのだ。今まで子供だからといって油断していたのが悔やまれる。上手く、対応の変換なんて出来ない。望美は特に、不器用だから。 「あのね、神子」 「な、なあに?」 「神子、大好き」 直球の、しかも熱烈な愛の告白に望美はひたすら照れまくったあと、ようやく思い出して感謝の言葉を伝えた。これが小さい白龍から言われたのならばにっこり笑って「嬉しいよ」と言って終わりだったのだが…。大きい白龍から言われた場合、真に受けてしまって照れる事しきりだ。 彼からの気持ちは小さい頃から変わってはいないのだろうけれど、同じとは受け取りにくいのだ。それはきっと姿が変わった事もあるけれど、望美の気持ちが前とは違っているから。 「ありがとう、白龍。…けど、突然どうしたの」 「何だか、突然伝えたくなって…。まだ、言い足りないくらい。神子の事が好き。大好きだよ」 全身がこそばゆくなり、望美はその場でちょっと体を捩った。 「くすぐったいな…」 「どうして? 私が好きって言うの、だめ?」 「だめ…じゃないけど、そんなに言われると、恥ずかしいよ…」 「恥ずかしいの? …恥ずかしいって事は、嬉しいんだよね」 「うん、嬉しい、けど」 けど、と言いかけるが、白龍は僅かに頬を染めて、くどいほどに愛を囁いた。 「じゃあ、何度だって言うよ。私の神子、大好き」 見た目は大人だけど、中身は子供のまま。 純粋なまま、純粋な好意を何の衒いも無く口にする。彼の純粋な好意、それ自体は男女のそれでなくむしろ友愛だ。けれど、「私の神子」の「の」であるとか、「大好き」であるとか、その容姿の男性に言われて深読みするなという方がどだい無理。 望美は深く溜め息をついた。自分が照れまくっているのも、結局は白龍を意識しているからに他ならない。それなのに、白龍からの愛情は望美が欲しているのとは違うのだ。 「どうかしたの? 溜め息、ついて」 「何でもないよ。それより、そろそろみんなのところに戻らない?」 「うん、分かった。…あ、神子、前見てないと危ないよ。…神子っ!」 「え?」 視界が突然ぐらりと傾いだ。地面に無数にある段差に、足を引っ掛けてしまったのだ。出るべき右足が前に出ていないのを自覚して。 転ぶ! ――そう覚悟してぎゅっと目を瞑る。 が、予測した衝撃は、いくら待っても訪れなかった。やってきたのは、どちらかというと温かくて優しいものに包まれているような、ほっとする感覚だった。 「神子、大丈夫。怖くないから、目を開けて」 言われて、おそるおそる目を開ける。眩しい光のあとに見えたのは、望美をしっかり抱きかかえている白龍だった。白龍の優しい熱にほっとしつつも、どこかかえって緊張してしまう。 「白龍…、」 「良かった、間に合って」 白龍はにっこり微笑んでみせた。 「ありがとう、白龍。また、守ってもらっちゃった」 「いいんだ。神子を守るのが、私の役目だから」 感謝して、白龍の腕から出ようとするのだが、望美の脱出を拒むようにしっかりと彼の腕が望美の体に回されている。それが緩まる気配は無い。 「あ、あの、白龍…?」 「ここで神子の体を離したら、またあなたは転んでしまうよ」 「もう、私そんなにドジじゃないよ」 「みんなのところに戻るまで、このまま運んでいってもいい?」 いいわけあるか。そう言い掛けた望美だったが、白龍は答えを聞く前にさっさと望美をお姫様だっこして運んでゆく。至近距離の白龍の顔に、望美は恥ずかしさが頂点に達してしまい反抗する事さえ出来なかった。何てきれいな顔なんだろう。ぽーっとしながら望美はうっとりしてしまう。整った顔立ち。望美以上につやつやした髪。羨ましくなるほど。 「あなたはとても軽いね。このまま空だって飛べそうなくらい」 「か、軽くなんて無いっ。白龍が、力持ちなんだよ」 「うん、そうだね。大人の体は、やっぱり便利だ」 「う、うん。そうだね」 大人の体になってしまった所為で、龍神の神子は毎日どきどきする羽目になっているというのに。それはそうと、こんな恥ずかしい事をされているのを八葉たちや朔に知られなくない。望美は口を開いた。出来れば乙女の夢である姫抱っこのまま運んでほしい気もするけれど、ヒノエや将臣にからかわれるのは避けたいところだった。 「みんなのいるところにまで近付いたら、下ろしてほしいんだけど…」 「どうして?」 「だって、からかわれたくない…」 白龍は束の間考え込んだが、数秒後にきっぱりと言い切った。 「だめ」 「なんで」 「だってそれは、あなたの本当の願いじゃない」 確かに。納得しかけて、続く白龍の言葉に再び望美は卒倒しそうになった。 「それに、私があなたを運んであげたいんだ。八葉は神子を守るよ、でも一番神子を守るのは私。この際だから、私が一番神子の事が大好きなんだってみんなに教えようと思う」 それだけ、大好き大好きと繰り返しても。 彼自身には、自覚は間違いなく無い。これだけ決定的としか思えなくても。 「…しょうがないなあ、もう」 もう少しだけ、今はこのままで。 彼の言う「好き」が、男の人が女の人にする「告白」に変わるのは、まだ遠そうだった。 おしまい |
■あとがき ここまで読んで下さってありがとうございました。 白望激萌え。しかし小説にすると台無し。 最初の白龍の「神子」という囁きを置鮎ボイスで読んでいただければ私はそれで満足です。 |
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