24.雨のち晴れ


 しとしと。

 雨は際限なく降り続いている。窓にへばりつく雨の雫の音は、否応なしにその存在を認知させる。
 白龍の自宅の、ソファにて。
 お互いの腕が触れ合う程の近さで、望美と白龍はソファに座ってテレビを見ていた。正確にはテレビを見ているのは望美だけで、白龍はそんな望美をじっと見ているだけだ。テレビは全くもってつまらないバラエティを延々流し続けている。望美はひとつ、小さな溜め息をついた。
 本当だったら外でショッピングに出掛ける筈だったのだが、雨だという事で中止になったのだ。する事もなく、白龍の家でぼんやりとテレビを見て、無為に時間を潰している。ショッピングするつもり満々だったから、家の中で何かするつもりなど毛頭なく、時間の過ごし方も思いつかないでいる。

「白龍、こっち見すぎ」

 望美がテレビを見ていようが何をしていようが、ただひたすら白龍は見つめ続けてくる。例の、甘くて優しい、穏やかな視線で。望美からすれば、テレビを見づらいったら無い。だからといって何をしてくるというのでもなく、邪魔をするのでもなく、ただ見つめているだけなのだから余計に始末に困る。望美は耳まで赤面しながら、白龍に告げた。
 それを聞き入れた様子も無く、白龍は望美にじりじりと近寄ると、耳元で大好きだよと囁き、そっと口付けた。望美は白龍のすらりとした長い足に視線をずらした。モデルばりに長い足にどきどきを隠せない。

「白龍、ダメだってば」
「どうして?」
「どうしてって…だって…っ」
「望美はそのままでいていいよ、私はこのまま続けるから」
「や…っ、ちょっと、それも…っ」

 照れてしまって、逃げる事も応える事も出来ない。膝の上に両の握り拳を置いたまま、望美は硬直したまま小さな抵抗さえ出来ないでいた。白龍はというと、望美の耳朶を甘噛みして、うなじを指先で触れる愛撫を続けていた。じわりじわりと迫り来る、自分の奥からやってくる本能に望美は身悶えそうになる。全てに負けて、屈してしまいそうになるのを、何とか留める。

「うぅ…やぁ…白龍、ってば」
「――望美は」

 白龍は突然愛撫をやめると、その近い距離のままで望美に問い掛けた。突然の事で、望美の中心で熱くなりだしていた気分は霧散する。それはそれで、焦らされているようで何だか納得いかない。断じて白龍とそういう淫らな行為がしたいわけでは無いのだが、中断されるのはもぞもぞしてしまって嫌だった。
 知らぬうちに白龍からの求愛行動にすっかり慣れきっている自分を自覚する他無い。

「え?」
「望美は、雨は嫌い?」
「どうして、そんな事?」
「だって、望美、雨の日は今みたいにむっつりしてる」

 真っ直ぐな眼差しに、つい真面目に答えてしまう。体の芯に残ったままの熱を気にしながらも、即答した。
 しとしと、と雨は降り続いている。耳の奥に残るような雨音。

「嫌い、だよ。だって、今日はショッピングに行く予定だったのに…」

 欲しいものが、あった。
 照れ臭いけれど、二人お揃いのマグカップを買うつもりでいた。白龍の家に、自分の存在する証を立てたかったのだ。それ以外にも、服を見立ててもらいたかった。白龍が「素敵だ」と褒める服を着て、それをまた褒めてもらいたかった。彼の好みの服を、着てみたかった。彼の事だから、何を着たって手放しで褒める事を分かってはいるけれど。
 二人でしてみたい事を色々考えていたのだ。それなのに、雨が全てを台無しにする。大嫌いだ、白龍との予定を潰す雨なんて。そう零すと、待っていたのは。

「私は望美が好きだけど、雨も好きだよ」
「…。どうして?」

 最初の彼の一言を赤面してやり過ごすと、望美は白龍に静かに問い掛けた。
 しとしと、と雨脚は次第に弱くなっていく。窓に当たる、その雨粒が小さくなり始めているのを目の端に留めた。

「だって、雨が降れば望美と二人きりでいられる」
「は、白龍…」
「望美にたくさん触れられる。触っても、怒られない。だから、雨の日が好きだよ」

 言外に込められた意味。
 …望美に触れたい。雨の日だから、思い切り触れたい。
 それに気付いて赤面する前に、白龍はふと何かに気付いたようにカーテンの向こうを透かし見た。青いカーテンの端から光が漏れているのが、望美にも確認出来た。雨が小雨に変わり、太陽が雲の切れ間から顔を出しているさまを望美は想像した。
 白龍は望美から体を離すと、小首を傾げて告げた。

「…望美。晴れてきたよ」

 晴れれば、ショッピングに。
 彼としては当初の予定を思い出したに過ぎないのだろう。元々はそういう約束ではあったけれど、今更だと望美は首を横に振った。熱を帯びた体のままでは、とても外になんて出られない。それは、白龍とて同じ事。
 マグカップも、洋服も、次の機会に回せばいいだけの事。
 彼に悪気は無いのだろうが、確信犯と思わずにはいられなかった。

「分かってる、くせに。どうして訊くかな」
「うん、分かってるけど、訊きたかった。…望美が私と同じ事を考えていてくれて、嬉しい」

 望美は大人しく、目を閉じた。心持ち顎を上げれば、降って来るのは甘い口付け。
 吐息がかかり、その後に訪れるのは緩やかな沈黙。
 そっと目を開ければ、そこにはほんのりと頬を紅潮させた白龍がいた。これから起こるだろう事を予想し、望美も知らず白龍と同じくらい頬を紅潮させた。

「望美。…いい、よね?」
「…うん」

 空は既に晴れ、虹がかかり始めていた。
 勿論、恋人たちにはその美しさも、見える筈が無い。
 …見えるのは既に、愛しい相手の姿だけ。


おしまい


■あとがき
ここまで読んで下さってありがとうございました。
白望萌え。ちょっとえろいくらいがちょうどいいと信じてます。
スキンシップ多すぎなくらいがちょうどいいと信じてます。
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