牡丹一華


迷ってなど、いない。
失敗など、していない。
育成だって、わたくしの方がずっと理想的。
当たり前だ。
女王になるために生まれて、女王になるために生きてきた。
それがわたくしの誇り。

では、この虚無感は、何?
首もとのペンダントに手をかける。
(ルヴァ様が、わたくしに下さったもの。)
とても美しいその石を見ると、心が落ち着いた。
いつも、本能的に感じている焦燥が、安らぐように思ったから。
育成は上手くいっている。あまりにも頼りないライバルよりも、ずっと安定した世界を保っている。
それなのに、じわじわとした焦燥が背中にひたりと張り付いたような感覚が、取れない。

(アンジェリークのせいね。)

不思議なライバルだ。
あまりにも頼りなくて、泣き虫で。およそ女王にはふさわしくないと思うのに、なぜか惹きつけられて。
守護聖様達も、皆彼女のことばかり気にかけて。
(それどころか、ライバルであるわたくしですら放ってはおけないくらい。)

女王になるために、努力して努力して努力して。
それでも、何かが足りない。
自分には、何かが決定的に欠けていて。
こんなに焦るのは、アンジェリークが多分それを持っているから。
自分の土地の、民を見て知ってしまったのだ。彼らの、表情を。
彼女の民たちは、きっとこんな表情をしていない。
こんな、何かが足りないような、顔を。
この民たちは、自分自身。

焦っている。自分には無い何かを持つアンジェリークに、同じ女王候補として。
(違う。)

この感情は、そんな高尚なものではなく。
ただの、ロザリアというちっぽけな一個の存在としての。
(嫉妬、ね。)
皆から愛される、いつもまっすぐなアンジェリークに。
なんて醜い、つまらない感情。
アンジェリークのことを言ってはいられない。自分もまた、およそ女王にはふさわしくない。

(でも、わたくしにはルヴァ様がいるわ。)
優しい人。
いつも穏やかに微笑んで。
ペンダントを貰ったとき、本当に嬉しかったのだ。
好意を示された、と思って。
大丈夫。
まだ、前を向いて、生きていける。
自分にだって、特別に思ってもらえている相手がいるのだから。




そして、あまりにあっけなく世界は壊れる。
(わたくしは、特別でもなんでもない)
(ルヴァ様の、視線の先にいたのはいつだって)
(わたくしは、何?)
(今までのわたくしがしたこと全て、わたくしの存在すら)
無意味?
敵いはしないの?
アンジェリークに。
がらり、と世界の崩れる音を確かに聞いた。
(あなたは、誰?)
夢魔。
(好きに、すればいい。)
どうせ価値の無い私の全て。
役に立つなら、全て持っていけばいい。
でも。
(わたくしの狂気は、わたくしのものよ。)
たとえ、増幅され、操られ、利用されたとしても。
それは無から派生し得ない。
(この狂気を生み出したのは、紛れも無い、わたくし。)
あなたを想って、でもあなたの視線の先には彼女がいて。
(自身の望んだ狂気に呑まれることでしか、矜持を保てない。)

(いっそ夢魔に魅入られるほど、貴方に魅入られていたのだ。)
その気持ちは本物。

(あなたをお慕いしていました。だって貴方しかわたくしをみてくれませんでしたもの。)

恋ですらない、という真実を。
貴方のせいで狂った、という事実で塗りつぶす。


■抹茶キノコさんのサイト「スノウポート
抹茶さんのサイトではアンジェは扱っていないのですが、何だか知らない間にいただいていました。
補足。
アンジェ漫画版の設定がベースになっています。
抹茶さんの暗黒小説具合がとても好きです。同じ波長を感じました。
これからも抹茶さんの暗黒具合を楽しみにしている管理人でした。
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