浴衣デートのお誘い |
「こんにちわ、アンジェリーク」 「ルヴァ様こんにちわ!お待ちしてました!」 聖獣の聖地。 聖獣の宇宙を統べる女王と、それを支える九人の守護聖と補佐官が常駐する宮殿内にある、女王の私室に訪れたのは、神鳥の宇宙の守護聖ルヴァである。 女王と守護聖。宇宙は違えど、その立場でありながら二人が恋人同士という関係であることは、両宇宙の仲間達にはすでに周知の事実だ。 二人はどちらも真面目な性格で、公私は固すぎるほどにきちんとけじめをつけていることもあり、仲間達は二人を温かい目で見守っている。 そして今日は、週に一度の休日。 二人が女王と守護聖としてではなく、ただの男女として逢うことが出来る日であった。 デートをするためにアンジェリークを迎えに来たルヴァは、彼女と逢えた嬉しさに自然と頬を緩めていた。 アンジェリークも、一週間ぶりに彼の大好きな微笑みを見ることが出来て、微笑みを返す。 にこにこと笑顔を交わしあう二人だったが、 「……アンジェ、ルヴァ様。さっさと行ってきた方がいいんじゃないですか?」 たまたま女王の私室の前を通りかかった補佐官レイチェルがそれを目撃し、呆れたようにそう言ってきて、思わず二人は頬を染めて俯いた。 今日のデートは神鳥の宇宙のとある惑星まで、遠出をする予定なのである。 「あ、あー…コホン。ええと、アンジェリーク。よろしかったら、今日はこれを着て出かけませんかねー?」 「……これは?」 ルヴァは手に持ってきていた箱をアンジェリークに差し出した。 首を傾げる彼女と、興味深そうに覗き込んできたレイチェルの前で、ルヴァはその箱の蓋を開く。 「わあ、かわいい柄…!」 「『浴衣』ですよネ、コレ」 「よくお分かりですね、レイチェル。これは今日向かう先の惑星にある伝統的な衣装なんです。せっかくですから、どうかと思いまして」 箱の中には、ピンク色の布地が丁寧に折り畳まれて入っていた。 淡い花模様のそれを『浴衣』と呼んだレイチェルは知っているようだったが、アンジェリークは知らないらしく、首を傾げている。 「いいじゃない、アンジェ。ワタシが着せてあげるよ」 「おや、レイチェルは浴衣の着付けが出来るんですか?」 「出来ますよー。あ、それともルヴァ様が着せます?」 「ええっ!!!!?」 真っ赤な顔で悲鳴に近い叫び声を上げたのはアンジェリークである。 それに対して、ルヴァは苦笑を浮かべて見せた。 「あー、レイチェルにお任せしますよ。一応自分で出来る着付けの本は持ってきていたんですけどね、出来る方がいるならやっていただいたほうがいいでしょう」 「オッケー、任せておいてください!このレイチェル様がとびっきり可愛く仕上げてあげましょう♪期待していてくださいネ!」 「ふふ、楽しみにしていますよ。私も用意してきたので、ちょっと隣のお部屋をお借りしますねー」 「どうぞどうぞ」 そんなわけで、今日は浴衣でデートとなった。 *** 自分の着替えを済ませた後、廊下でアンジェリークを待っていたルヴァの前に、浴衣に着替えたアンジェリークがおずおずと恥ずかしそうにしながら姿を見せた。 その可愛らしい姿に見惚れるように、ルヴァは思わず彼女を凝視してしまう。 「…お待たせしました…ルヴァ様、あんまり見ないでください…恥ずかしいです」 「ああ、すみません。でもね、想像通り……いいえ、想像以上に、貴女があんまりにも可愛らしいものですから」 「……あ、ありがとうございます」 ニコニコと笑顔でアンジェリークを見つめるルヴァの視線に、彼女は頬を染めて礼を言った。 恋人に可愛いと褒められて嬉しくないはずがない。 着慣れない浴衣は少し歩きにくかったが、それでもこんな風にルヴァが喜んでくれるなら、毎日だって着てもいいくらいだとアンジェリークは思う。 「浴衣に合わせたリボンも可愛いですねー。普段の下ろした髪もいいですけど、ふわふわにしたまとめ髪も好きですよ」 「……ルルルルヴァさま、褒めすぎですっ。褒めすぎっ」 「ふふふ、照れちゃいました?」 「…照れちゃいますよ〜」 アンジェリークはルヴァの顔を真っ直ぐに見ることが出来ずに、俯いてしまった。 「では、このくらいにしておきましょうか。せっかくのデートなのに、アンジェリークの顔が見れないのは寂しいですからね」 「……ルヴァ様、ワザと言ってませんか」 「そんなことありませんよー?心の底から、正直な感想です」 クスクスと笑うルヴァを、アンジェリークがジト目で睨む。 「…でも、ルヴァ様もすごく素敵ですよ。お似合いです、その浴衣」 「おや。反撃に出ましたね?」 「私も素直な感想ですよ、ルヴァ様ったら」 「それは失礼しました。ありがとう、アンジェ」 少しばかり意地悪モードに入っているらしいルヴァの態度に、アンジェリークは小さく頬を膨らませて見せた。 だが、こんなルヴァも嫌いではないアンジェリークだ。 恋人同士となる前は、こんな一面を見せてくれることは一度もなかったから、こんな彼を知っているのは自分だけかもしれないと思うと、むしろなんだか嬉しくなってくる。 「ところでね、これから行く惑星では『夏祭り』というお祭りが開催されているそうなんですよ」 「わあ、お祭りですか!」 「ええ。ふわふわの砂糖菓子や、りんごを丸ごと飴にしちゃったものや、なんとおせんべいにらくがきが出来てしまうお店などがあるそうなんです。食べ物以外にも色々と楽しいお店があるそうなんですけどね、私は『よーよー釣り』というものをやってみたくてですねえ…」 「よーよー…釣り?なんですか、それ?」 「『よーよー』というものを釣る遊びらしいのですが、なんでしょうねえ。実は私もまだ分からないんですよ。私の知らない魚のことでしょうかねえ。ふふ、釣りには興味があるんですよ」 「楽しみですね」 「ええ。貴女と一緒に行けることが何より一番、楽しみですよ」 「私もです、ルヴァ様!」 着慣れない浴衣と、履きなれない下駄を履いたアンジェリークを支えるように、ルヴァが微笑んで手を差し出した。 アンジェリークも笑顔でそれに応えると、差し出されたルヴァの手に自分の手を重ねる。 しっかりと握った手を繋いで、二人はゆっくりと歩き出した。 END |
■緋内千衣理さんのサイト「bouquet」 千衣理さんのサイトにて暑中見舞いフリーとなっていたルヴァコレ文をいただいてきました。 かわいい! かわいい! と悶えまくりです。 お祭り中にありがちなハプニングを想像して、ひとり妄想に耽った私です(笑) りんご飴を口の端に残したコレットとか、慣れない装いに転びかけるコレットとか、そんなコレットを優しく見つめるルヴァ様とか…v で、最終的には脱がせるんですよね?(笑) やっぱりそう来なくては! 千衣理さん、ほんわか癒し系ルヴァコレをありがとうございました〜vv |
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