「まあ、雪ですわ」 ロザリアは手のひらを上へ広げて曇った空を見上げた。 冬である。ちらちらと雪が舞い散るその日、ロザリアはリュミエールとともに外に出かけていた。雪が降るだけはある、気温は随分と下がっていた。肌がきしきしと音を立てそうなくらい、寒い。二人して着込んではいるけれど、今日は散歩に向く天気ではなかった。 震えを抑えようと自らの体をかき抱いたロザリアを見て、リュミエールはゆるゆると微笑むと語り掛けた。 「ロザリア、もう少しこちらへ」 「え、…」 リュミエールは腕を広げてロザリアを見つめた。 意味するところを瞬時に察知し、ロザリアは何か答える前にかーっと頬を赤くした。 「む、無理です、そんな、…人の目もありますのに」 「気になりませんよ」 「リュミエール様が気にならなくても、わたくしは…!」 「ロザリアは純粋なのですね」 答えられなくて、ロザリアは顔を赤くしたまま俯いた。リュミエールはこのように、時々どういうわけかロザリアに対して小さな意地悪をする。彼自身だって人に見られてからかわれるのは本意ではない筈なのに、大胆な提案を繰り返すのだ。大概は仕方が無いですね、と言ってリュミエールが折れるのだが。 「では、こうしませんか、ロザリア」 「え?」 リュミエールは今度は片手を差し出した。譲歩して、手を握るくらい、という事らしい。それなら何とか…とだけ返事して、ロザリアはその手を握った。彼の白い手袋を、きゅっと握る。手袋越しでも、彼の暖かい心が感じられてロザリアは嬉しくなった。 雪は未だ止まない。手がかじかむ程に寒さは厳しいが、暖炉に向き合っている時のように心は穏やかで浮き立っていた。 「…嬉しそうですね、ロザリア」 「ええ、とっても」 隣に優しい人がいてくれるから。手のひらから伝わるじんわりした熱は、ロザリアの頬をほころばせた。
おしまい
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