朝の森。
何かに呼ばれたような気がして、セシリアは目が覚めた。
「……?」
随分、早くに目が覚めてしまった。
まだ太陽は昇ったばかりのようで、大気は冷たさを帯びていた。
今更眠りなおす事なんて出来なくて、キャンプを出て散歩に出る事にした。
神聖ささえ感じる程の、森。
太陽の光が柱状に注いでいる。鳥の声が優しく騒ぐ。
魔獣が現れないのは、きっとこの神聖さの所為。
自分の足音がうるさいくらいによく聞こえた。
さくさくと落ち葉を踏んでセシリアはどこへともなく歩き出した。
歩くうち、何かもう一つの音が聞こえるのが分かった。
誰か、もう1人の足音。
セシリアはその場できょろきょろと辺りを見渡した。
(誰? ……あ)
ロディがこちらに背を向けて歩いていた。
何かを右手に持っている。
躊躇う事無くセシリアは彼に駆け寄り、話しかけた。
「おはようございます!」
「おはよう、セシリア。珍しく、早起きだね」
「ええ、何だか目が覚めてしまって、散歩をしてました。ロディはどうしてこちらに?」
「俺は……」
なぜか言いよどむロディ。
セシリアは気にせず、彼の手の中にあるものを見た。
花束。
白い小さな花の束。可憐だ。
「可愛い花ですね」
そう言うと、彼はどうしてだか少し赤くなった。
しばらくロディはあれこれと何かを考えてしたようだったが、やがて意を決したように、口を開いた。
「ありがとう、セシリア」
「え?」
今日は、セシリアと出会って1年目の記念日だから。
1年だとなぜ花束を渡す事になるのか。
セシリアにはよく分からない。
だけど、つい。
彼が自分に対して花をプレゼントしてくれた、その事実が嬉しくて。
ありがとうと言って受け取ってしまった。
二人はどちらからともなく寄り添い。近くにあった大きな木に寄りかかり座った。
セシリアは花束を優しく抱き締めた。
ふわ、と花が香った。
「一年……色々ありましたね」
「辛い事も悲しい事も、いっぱい」
「でも嬉しい事もたくさんありましたよ。それは悲しい事に比べればささやかすぎるかもしれませんが……私はささやかでもけして忘れたりしません」
「うん、そうだね。俺も忘れない」
と、ふと、疑問が湧いた。
「どうして1年だと私が花をもらう事になるんですか?」
あまり想像したくはないが、その理屈で言うならザックにだって贈らないと変だ。
「え、えっと……俺の嬉しい事は、セシリアが見つけてくるから」
「私が……ですか?」
「上手く説明出来ないけど、いつもそうなんだ。今日だって、セシリアとこうして過ごす時間が、俺の嬉しい時間になるんだ」
妙に本気の表情で言うので、何だか照れてしまう。
それに、自分だって。と思ってしまう。
わたしだって、ロディと過ごす時間が嬉しい。何も言葉なんて交わさなくても、ただ傍にいるだけでも。
もちろん3人でいるのだって楽しい。でも、それとこれとは別問題。
ロディと二人きりでいる瞬間はもっと心がほかほかするような、あったかいような、そんな気持ちになるのだ。
……同じ気持ちでいるのだと、そう思いあがってもいいのだろうか?
そろそろとロディを窺い見ると彼は自分の発言の重大性に思い至ったようだった。
ロディが変な咳をした。
「とにかく、……セシリアがいたから今まで挫けずに来れたんだって思ったら、感謝いなくちゃいけないような気になったんだ」
「それで、花束、ですか」
「う、うん」
会話が、途切れる。
二人して「あの」とか「えっと」とか言うのだが、あとが文にならない。
意を決してセシリアは言った。
「あの、私も……です」
「え?」
「私も、ロディと過ごす時が嬉しい事になるんです」
ロディは二の句が告げないようだった。
「こういう、ロディと過ごす何でもないような時間が、一番嬉しい事なんです……」
淡々と。だが確かな気持ちを込めてセシリアは告げた。
ふいに何かに気付いたようにセシリアはばっと立ち上がった。
「ザックがそろそろ起きてくるのではないでしょうか。戻らないと、怪しまれちゃいますね」
この台詞が、照れ隠しなのは明確だった。
「え? あ、そうだね」
二人は慌てて歩き出した。
セシリアは何も言わず左手を差し出した。
ロディも、何も言わずにそれを優しく握った。
あとはお互い言葉にならなかったけれど。
君と一緒に過ごすアニバーサリー。
おしまい
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