アートレイデ兄妹こばなし |
「精が出るな、ユウリィは」 「はい」 感心した声を上げるラクウェルに、ユウリィは手元の泡だて器を動かし続けたまま微笑んだ。 宿の厨房を借りているので、あまり凝った物はできないけれど、せっかくのバレンタインデー。 大切な人に、贈り物をしたいから。 作っていることがしあわせ。 もらって喜んでくれれば、もっとうれしい。 辺りには甘いチョコレートの香りが漂っている。 ユウリィはチョコレート味のカップケーキを作っていた。 ラクウェルがユウリィの手元を除くと、カップは4個。 4個? 「何か多くないか?」 「ええ。ジュードとアルノーさんと、それからラクウェルさんにも」 「私にも?」 「はい。いつもお世話になってますから。これからもよろしくお願いします、の意味も込めて、です」 「ありがとう……。いや、それでも数が合わないのでは?」 「ふふふ。もう一つは秘密です」 首を捻るラクウェルに、ユウリィは笑いかけた。 「ラクウェルさんもアルノーさんに作ってあげたらどうですか?」 思いがけない一言だったのか、それとも内心では考えていたのか。 ラクウェルの顔が一瞬で赤くなり、見るからに狼狽した彼女は必死に首を横に振った。 「いいいいいや、わ、わ、わたしは…ッ!」 ラクウェルの慌てぶりを微笑ましく思いつつ、それならば、と新しい提案を出す。 みんなに楽しいバレンタインデーを過ごして欲しいから。 「じゃあ、街で買ってきてはどうですか? たくさんのチョコレートをあれこれ見て選ぶのも楽しいですし、十分悩んで選んだこと、きっと喜んでくれますよ」 「そ、そうだろうか…」 腕を組んで真剣に考え込んだラクウェルに、ユウリィはうなずいてまた微笑む。 「はい、絶対です」 大切な二人が、楽しいバレンタインデーを過ごしてくれれば、しあわせな一日を過ごしてくれれば、ユウリィだってうれしいのだ。 そして、最後のカップケーキ。 手元に届けることは難しいかもしれない。それでも作りたかった。 ありがとう、とお礼を込めて。 これからもずっと一緒です、と気持ちを込めて。 しあわせを届けたかった。 大切な、兄さんに―――。 |
■さわらさんのサイト「さわらな日々」 クルユリが足りない足りないと日記で愚痴っていたところ、そんな私に哀れを催してさわらさんが書いて下さいました。 それだけではなく「下さい!」と駄々をこねこねしたらご親切にもいただける事になりました。 ありがとう大地よありがとう生まれてきて良かった。 それにしてもアートレイデ兄妹創作なわけです。すっかりラクウェルをからかうユウリィ…大人だ…。 これは「兄とわたしの仲は酸いも甘いも噛み分けているから今更もう照れる要素が無いんです」と読めてしまいました。 >これからもずっと一緒です、と気持ちを込めて。 アートレイデ兄妹のいいところって色々いっぱいあると思いますが、 こんな台詞にも表れるように「現実の距離は離れているが、互いの心は何より近い」ところが一番なんじゃないかと思うんですね。 姿は無くとも信じられる。大切で大好きだから。 …言ってて泣きそうになるくらい互いを信じあい想い合う兄妹がたまりません。大好きです。 あと、さわらさんも仰ってましたが、兄はきっとこっそり取りに行くと思います。(笑) さわらさん、素晴らしい贈物をありがとうございました。むしろこれは私へのバレンタインチョコですね! 大事に、繰り返し読ませていただきますね。それこそもうPCが擦り切れて画面が見えなくなる程に。 お兄様がこっそり取りに行く話を書きました⇒泥棒と名探偵 |
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