穏やかな100のお題1〜20


:ED後かつ兄帰還後・同居設定・舞台は全てハリム
全て超SSSで兄と妹がひたすらラブラブしているだけです。001は設定説明。
では100話斬り・スタート!

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001 ひとり
 クルースニクがユウリィの元に帰ってきて、数日が経った。最初は混乱していたし、周りもそれにつられるようにばたばたしていたけれど。ようやく今日になって落ち着いて、兄と過ごす環境を整えられた。
 きっと彼は生きていると、固く信じていたけれど。それでもやっぱり、こうして生きている彼の姿を間近で見られるのが嬉しくて、ユウリィの頬は自然と緩みっぱなしになる。
 今日からクルースニクと一緒に暮らすのだ。考えてみれば家族水入らずの時間を過ごすのは、初めての気がする。何をしたらいいだろう。今夜の夕食は。それから明日の献立や。色々考える事はあるけれど、その全てがユウリィにとっては幸せな悩み事なのだった。
 どんなときでも、ひとりじゃない。それはとても、満ち足りた事。
 おそるおそる、といった体で慣れない場所、慣れない家、慣れない玄関に入ろうとするクルースニクに、ユウリィは両腕を広げて優しく呼びかけるのだった。
「わたしはもうひとりじゃありません。兄さんも同じです、…もうひとりじゃありません。わたし、兄さんの傍にずっとずっといますから」
 ここから始まる二人の物語。

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002 おはよう
 この家に住む事になって、一番最初に用意したのがこの二人でごろんと寝てもまだ余裕のある大きなベッドだった。隣に兄の温もりを感じて寝起きしたいから、とせがんで手に入れたのだ。わがままを言ったと思う。でも引き下がれなかった。
 目が覚めた時に、最初に見るのは兄の顔。それはどれだけ幸福な事だろう。
 ――今。ユウリィは朝日の中、まだ眠りの世界にいる兄に静かに呼び掛けた。無防備に、子供のような表情で寝入る彼を、9歳も離れているのに妙に可愛らしく思った。それでも、もう朝だ。気は進まないけれど起こさなくては。
「おはようございます、…兄さん、起きて下さい」
 まだ兄は目覚めない。兄の体を揺らしながら、それでも起きようとはしない兄を焦れったく思いつつも、それでもなぜだかユウリィは幸せな気持ちでいっぱいだった。
 今日も、幸せな一日の始まり。

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003 はじめて
 交わすのは、ユウリィにとっての初めてのキス。影がそっと落ちてくる。気恥ずかしさに目を閉じれば、影は一層濃くなりその直後に唇に「それ」が落ちてきた。
 温もり。自分と似ているけれど、少し違う人の温もり。この温かさにどれだけ救われてきた事か。
 ごく僅かな、触れるだけの口付け。遠慮がちに降りて来た兄の唇は、離れる時も同じくらい名残惜しそうだった。彼の唇が離れて数秒経ったあと、ゆっくりと目を開けてみれば、そこには珍しく柔和な微笑を湛えた兄の姿があった。
「…はじめて、なんです」
「それは良かった」
 事も無げに、そう呟く兄に、ユウリィはひたすら赤面するのだった。何がどう良かったのだろう。やはり、ユウリィのファーストキスを狙っていたという事なのか。
 きっとそうなのだろう。15年前からずっと。
 ユウリィのファーストキスは、クルースニクのもの。

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004 笑顔
「ユウリィ…、おいで」
 リビングにて、丸テーブルで新聞を読んでいたクルースニクは、それに飽きたのか妹を手招きしてきた。
 クルースニクはユウリィを招き寄せると、抱えあげて自分の膝の上に乗せた。
 ユウリィはただ、兄の満面の笑みに見入るばかりだ。
「どうかしたのか?」
「いえ、あの…兄さんが、嬉しそうだなって思って」
 あまり感情を表に出す事の無い兄が、これほどはっきりした表情を見せるなんて珍しい。兄の見せる魅力的な顔立ちに思わずドキドキしてしまって、ユウリィは俯いた。
 一番近くにいるから忘れがちだけれど、兄はこんなにも整った顔をしているのだ。
 世界で一番、兄さんはかっこいい。それが笑顔なら尚更。
 …でも、笑顔を見せるのはユウリィ絡みでの何かでしか無い事も、ユウリィはちゃんと分かっているのだ。

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005 ともだち
「ユウリィ、何処に行くんだ?」
 ユウリィが玄関で爪先をとんとんと叩いて靴を入れていると、背後から兄の声がした。いつもより、若干硬い声音。何かを警戒しているような。振り返って見れば、僅かに眉間に皺が寄っている。
「え? 友達の所にですけど…」
「友達、というのは…どっちの事だ?」
「どっちって…何がですか?」
「…。いや、だから…」
 あ。分かった。とユウリィはぽんと掌を拳で打った。
「兄さんてば心配性ですね。友達は女の子ですよ。…大丈夫です、兄さんが心配する事なんて、何もありませんよ」
 だってユウリィにとっての異性はクルースニク、ただひとりきりでいいのだから。

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006 ほのぼの
 3人分の長さのあるソファは、クルースニクとユウリィが贅沢に使ってもまだもうひとり座れる余地がある。それだけ大きい。それでも、いつもユウリィはクルースニクにぴっとりくっついて座るからゆうに余りが出るのだった。そういう時のクルースニクもスキンシップが取れるのが満更でも無いようで、必ずユウリィの肩や腰に手がいっている。抱き寄せる、かのように。
 いつものように二人くっついて座っているうちに、ユウリィはいつしか眠気を覚えていた。睡眠時間は十分、だけれど時にこうして押し寄せる眠気。兄の傍にいて、落ち着いてとしていられるのが理由かもしれない。ユウリィの体温が上がってきた事に気付いたクルースニクが、そっと声を掛けた。
「眠りたいなら、眠っていい。…俺もそうするから」
「あ…ありがとう、ございます…」
 眠っている少女の隣には、これまた眠っている青年の姿。すやすやと、どちらも平和な顔で。

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007 木漏れ日
 クルースニクとユウリィの住む家の庭には、大きな木がある。生まれてから一体何年経っているのか、計るのも難しい程の巨木。夏が近づけば心地よい日陰を作り出してくれる。
 その木の真下で、兄と妹はくつろいでいた。妹は兄に体をもたれかけさせて、すっかりリラックスしている。
「気持ちのいい陽射しですね、兄さん」
「そうだな…。葉が茂っていて、直射日光が避けられるのはいいな」
「ここ全体が日陰ですもんね」
 この世界に在るのは兄と木漏れ日と自分。たったそれだけのような気がして、ユウリィは顔をほころばせた。きっとそんな世界は悪くない。

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008 はんぶんこ
「あんまん、ふた…ううん、ひとつ下さい」
 財布の中を確認してみれば、ちょっと余裕が無い。屋台で久しぶりにあんまんでも買おうかと思ったけれど、ふたつ買うのはやめた。それに甘いものがあまり好きではない兄には、あんまんひとつ丸ごと食べるのはつらいだろうとも推測する。
 ユウリィは結局あんまんをひとつ買うとそれを半分に割ってクルースニクに差し出した。
「はい、はんぶんこです」
「くれるのか?」
「はい。ひとりで全部食べるのは、ちょっとつらいし…だから、平等に」
 二人でひとつのものをわけっこする。子供のやり取りのようで、ユウリィは妙に微笑ましい気分になった。

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009 まんまる
「月がまんまるです、兄さん」
 ベランダから夜空を見つめる。どちらが言い出した事かは忘れたが、時折こうして二人でぼんやりと空を見上げる事がある。その都度発見があって、飽きる事は無い。
「そうだな…今夜は満月かもしれないな」
 月明かりの所為で、今夜は星が見えない。その代わり、隣にいる兄の姿がよく見えた。
 なおも、月をじっと見ていると、クルースニクが体を曲げてこちらに顔を近づけた。
「兄さ… ッ?!」
「すまない、つい…」
 一瞬だけ、彼の顔に隠されて月が見えなかった。

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010 洗濯日和
 洗濯物を次々と干していく。この前最新の洗濯機を買ったから、性能も上々気分も上々だ。洗濯物が真っ白になって出てくると、ちょっと嬉しい。
 要領よく作業を続けていると、横からクルースニクがやってきた。
「何か手伝おうか」
「いいんですか?」
 タオルを手渡せば、意外と手馴れた様子で干していく。淀みない動き。よく考えればブリューナクに所属していた時にはひとり暮らしもしていたのだろうから、男のひとり暮らしとはいえ基本くらいは備わっているのだろう。
「上手ですね」
 素直に口をついて出た褒め言葉に、クルースニクは気を良くしたようだった。
 …意外にあった生活力に、惚れ直した、なんて言えない。

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011 ピクニック
 兄とピクニックに行く事になった。たまには外で食べようかと、そう互いに提案して決めた事だった。色々考えた末、ユウリィはオーソドックスなサンドイッチを拵えた。たまごサンドと、ハムサンドと、野菜サンド。それらと、温かいお茶を持ち込んで高台で広げた。
 二人で、広く晴れたの空の下でサンドイッチをぱくつく。
「…美味いな」
 僅かに口許を綻ばせるクルースニク。美味いと言っても所詮サンドイッチ程度のもの。けれど純粋に褒められて、ユウリィも悪い気はしなかった。
「兄さんが喜んでくれて良かったです」
 折角作るのならうんと美味しいのがいい。褒めてもらいたいからそうするのではない、兄の美味しそうな顔が見たいからそうするのだ。
「ユウリィ、口に…」
指摘されて、ユウリィは口の端に手をやった。子供みたいで恥ずかしい。
「あ…、ついてますか?」
「違う、右だ。…仕方ないな」
「…あっ」
彼が、ふ、と微笑んだ気がした。
口を拭ったのは、兄の唇。

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012 おめかし
 時々はきれいな恰好をする。髪だって結わえて、服装だってそういう時には小奇麗にまとめてみせる。そうすると、大概ひどく兄は驚いて「誰と何処へ何をしに行くのか」と質問攻めにする。
 違う、と言ってしまいたい。いつもそんな思いに囚われる。
 きれいな恰好をするのは、きれいだねと言われたいからなのに。…他の誰でもない、兄に。
 けれど、クルースニクはそんな妹のささやかな我が儘に気づいた様子もなく、誰か男に会うんじゃないかと疑心暗鬼になってばかりだ。何も分かってない。本当に鈍い男。
「もう。兄さんのために、折角きれいにしたのに…」
 ぽつり、すっかりむくれてそう呟くと。頭上から降ってきたのは、明らかな困惑。
「そう…だったのか?」
「そうなんです!」
 勢いにまかせて抱き着けば、ぎゅう、と優しく抱き返す腕。
 嬉しいけれど、それでもぼやかずにはいられない。このニブチン。

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013 そよ風
 そよ風…なんて可愛いものでは、当然無く。
 ぶわあ、と吹いた突風により、ユウリィのスカートは派手にまくれあがった。
「…ッ」
 突然の事で、スカートを抑える事もしていなかった。慌てて後ろを振り返れば、案の定複雑そうな表情で顔を抑えたクルースニクがいた。
「見…ました?」
「見てない」
 鼻血が出そうな顔しておいて、よくも嘘を吐く。
「兄さんは嘘つきです!」
「なら、見たと言えばいいのか! 可愛い柄だったとでも言えばいいのか!」
 二言目が完全に余計だった。
「〜〜〜〜ッ!! 兄さんなんて嫌いです!」
 しばらくは口も聞きたくない。いいかげんこちらも、子供っぽい柄ものは卒業しようと心に決めた。次は卒倒しそうなくらいにセクシー路線なものでも手に入れようか。
 …やめよう。ガミガミ怒る兄の顔が目に浮かぶようだった。

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014 おそろい
 お揃いのものが欲しいと、前からずっと思っていて。でも日常品でお揃いの何かだなんて恥ずかしい。お互いそういう年でも無いのだし。出来れば家の中でしか使わないもので、何かお揃いを。そう考えていた折り、ユウリィは青のパジャマのサイズ違いを2セット買った。
 無論、小さい方がユウリィのもの。大きい方がクルースニクのものだ。おずおずと、お揃いを買った事を報告した。問題は、兄がこれを着てくれるかどうかなのだ。何も相談せずに、勝手に購入してしまったから。
「お揃いのパジャマ、買ってみたのですが…」
 もじもじと切り出せば、存外大人しく青いパジャマを手にとる兄の姿があった。返ってきた言葉は、思いもかけず照れ臭そうかつ嬉しそうな響きが込められていた。
「…照れるな」
「あの…着てくれますか」
「勿論だ。…一揃いというのは、いいものだな」
 感じたのははっきりとした肯定。ユウリィはにっこり微笑んで、言葉を返した。
「はい。わたし、幸せです」

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015 青空
 兄には青空がよく似合う。前を歩く兄の背中を見て、わけもなくそう思った。きりりと伸ばした背筋。いつでもどんな時でも、姿勢を正して歩く彼。あまりに真っ直ぐで。
 そんな彼には、生きている世界が似合う。青空が似合う。…あの時。もう二度と会えないのだと、心密かに覚悟もしたけれど。本当はそんなもの、不要だったのだ。
 彼には青空しか似合わない。地上の世界しか似合わない。日の光の差さない地下世界など、彼には似合わない。あんな世界になど、留まらなくて正解だったのだ。
 ユウリィは思索に耽るのを止めると、駆け寄って兄の背中に抱き着いた。
「どうかしたのか?」
 いきなり背中に飛び掛かられて、クルースニクは少しだけ驚きを見せた。ユウリィはぎゅぎゅうとその背中にしがみ付くと、彼の耳元に囁いた。
「…兄さんがいてくれて、良かった」

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016 きらきら
 大好きな人は、何処にいてもすぐに分かる。
 昔、そういう内容の恋愛小説を読んだ覚えがある。その時は、ふうん、そんなもんか、と読み飛ばしていたものであったが。実感の伴わない理解。それでも、いつかは自分にも好きな人が出来ればそういう素敵な体験が出来るのだと、ときめきを覚えたものだった。
 好きな人の周りは、いつだってきらきらしているから。だからすぐに分かるのだと、その小説には記されていた。――今なら分かる。好きな人は、他の人とは全然違うのだ。その人の持つ空気が、雰囲気が、周囲がきらきらしているから。
 どれだけ混んだ所でも、大好きな人は瞬時に判別出来る。
 ユウリィはごった返した市場で、それでも愛しい人の姿を見つけると顔を輝かせて駆け出した。
「兄さん!」
 ユウリィの大好きな人は、今日も彼女にとってはきらきらした存在。

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017 お買い物
「ひとつ持つ」
 いつものお買い物の途中で。荷物を抱えたユウリィに、そう囁いて荷物を奪ったのはクルースニクだった。
「あ…ありがとう…ございます…」
 そのまま、二人で並んで歩く。二人して大きな荷物を持って、こうしてのんびりと歩く姿は傍から見たらどのように映るのだろうか。恋人同士、とか。その想像に、ユウリィは仄かに頬を染めた。二人は似てるからきっと間違われる事は無いけれど、でも、…出来れば間違われたいと願うのは否定出来ない。
 ふと、空いていた左手をクルースニクが取った。そのまま、しっかりと恋人繋ぎにする。
「兄さん…?」
「こうしていると、まるで兄と妹じゃないみたいだな」
 おんなじ事を、考えていた。嬉しくなって、ユウリィは兄の手をぎゅっと握った。

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018 手づくり
 「たまには俺も手伝う」と言って、台所に立とうとするクルースニクを横目でちらりと見遣った。掃除洗濯家事と、一通りはこなせるらしい兄だが、料理に関してはどうも信用ならない。味オンチというわけではないが、そこはそれ、食べる事に関して執着の無い兄の事である、どのような味であっても無表情で食べ続ける事には変わりないのだ。手伝ってくれるのは嬉しいものの、ユウリィは複雑な顔を浮かべるのを止められなかった。
「…じゃあ、そこの野菜を洗って切ってもらえますか?」
「分かった」
 けれど兄が協力すると言う以上、それを断る事も出来なくて。ユウリィは仕方なし、そんな簡単な仕事を頼んだ。
 …これはこれで、悪くないかもしれない。台所に並んで立って、二人で料理を作るのも。二人の手づくり料理は、きっと互いへの愛情が詰まって美味しい筈。

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019 そっと
 仕事が残業続きで疲れているらしい兄に、夜食を持っていく事にしたユウリィ。ここのところ彼は徹夜のようで、傍から見てみてもその疲労度は痛々しい程だ。
 部屋にそっと入ってみれば、そこにいたのは疲れきって机に突っ伏す兄の姿だった。これでは折角持ってきた夜食も台無しだけれど、起こすのは忍びない。ユウリィはベッドから毛布を持ってくると、そっと彼の肩に掛けた。それでも起きる気配の無いところを見ると、余程疲れが溜まっていると見える。机の端に夜食を置いて、ユウリィは電気を消した。
 そうして、兄のこめかみにおやすみの口付けをすると、足音を立てないように部屋から出て行くのだった。

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020 ひなたぼっこ
「あ…、兄さん?」
 いくら呼んでもやって来ないのでリビングに向かってみれば、クルースニクは日なたで昼寝をしていた。クッションを枕代わりにしてすやすやと眠る兄の姿は、度を越して無防備でとても24歳とは思えなかった。
「もう…」
 でも、ちょっと羨ましい。ユウリィは迷う事なく兄の隣に寝転がると、ゆっくりと目を閉じるのだった。あったかい日差しとあったかい兄の元で、一緒に昼寝。いつしか心地よい風も吹き始め、とろんとした瞼を下ろし、ユウリィは夢と現の間でぼんやりと考える。
 なんて平和で静かな世界。

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