穏やかな100のお題41〜60


:ED後かつ兄帰還後・同居設定・舞台は全てハリム
全て超SSSで兄と妹がひたすらラブラブしているだけです。001は設定説明。

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041 雨宿り
「雨、止みませんね…」
 二人で買い物に行った帰り道。急に降り出した小雨。この程度なら多少濡れる程度で済むから帰ろう、と先程からユウリィは言っているのだが、クルースニクはそれを聞き入れる様子は無い。お前が風邪でも引いたらどうする、と言ってきかない。そんなにやわじゃないのに、どれだけ深窓の令嬢扱いするつもりなのだろうか。これはこれで大事にされているんだと再確認出来て、嬉しくないわけでもないけれど。
 二人は近くのお店の軒先で雨宿りを続けている。
「ユウリィ、もう少しこっちへ」
 言われて、ユウリィは肩を兄へと預けた。どんな手段であれ、兄に触れられるのは嬉しかった。

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042 布団
 からりと晴れた、その日。ユウリィは久しぶりに布団を干していた。きっと今夜眠る時には太陽の匂いがして、ぽかぽかとしているに違いない。布団を干しつつも、洗濯物を次々に干しているとユウリィの背後から兄がやってきた。
「兄さん?」
クルースニクは何も言わず、ただユウリィを抱き締めるとそっと口付けた。
「に、兄さん…?」
「布団に隠されているから、こうしていても誰にも見えないだろう…?」
 もう、と少し小突いた。それでも抵抗する気はユウリィには更々無かった。

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043 ちょうどいい
 ソファの上で、ユウリィは自作のレシピ集とにらめっこして今夜の晩御飯についてああでもないこうでもないと考えを巡らせている。すぐ隣に、ユウリィが見ていないとどうかなってしまいそうな人がいるから。自分ひとりだけならこんなに真剣に考えたりしない。
 その人は、今は雑誌に目を通している。ユウリィが見てもよく分からない、専門的な雑誌だ。
 二人の間には会話は無い。それでも常に二人の間の距離や温度は一定に保たれている。そしてそれが心地よくて、ちょうどいい。
 こうして何年も何年も過ごせればいい、とユウリィは思った。

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044 いきもの
「兄さん、起きて下さいってば」
「う…ん…」
「兄さんってば、もう朝ですよ」
 朝日眩しい中、隣で寝入るクルースニクをゆさゆさと揺らしても、うんともすんとも動かない。今日はもう駄目だろう。ユウリィもクルースニクも元来眠りの浅い性質だが、このところ――正確に言えば、こうして一緒に暮らし始めてから彼の眠りはぐっと深くなったような気がする。生活を預かるユウリィはというと気を張り詰めている事が多い所為か眠りが深くなった覚えは無いが。
 寝顔をじっと見つめれば、何処か彼の顔は犬っぽいように見えてきた。いや、それともねこか? ブリューナクへの忠誠心は犬っぽいと言えるかもしれない。でも、誰彼となくある一定の距離を置きたがるのはねこっぽいと言えるだろう。
 そうして兄の寝顔をじっと見つめていても、一向に飽きない自分がいた。

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045 ぽろぽろ
「ユウリィ、どうしたんだ」
 焦りを含んだ呼び掛けに、その時ようやくユウリィは頬を何かが伝って行っているのに気付いた。
「あ…玉ねぎが、目に…」
 ハンバーグを作ろうと思い、玉ねぎをざくざくとみじん切りにしていたら途端にこうだ。
 その間も、ぽろぽろと涙は止まる様子を見せない。
「くっ…玉ねぎめ! よくも俺のユウリィを!」
 …相変わらず、兄の台詞は何処かピントがずれているのだった。

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046 お気に入り
 ユウリィのお気に入りの服の色は青だ。元々青色が好きな所為か、こうしてクローゼットを眺めてみると青系統の服ばかりなのだ。こうして気が付いたのはわけがある。ユウリィの服装になど無頓着なあの兄が、この前「たまには違う感じの服を着たお前を見たい」などと言い出したのだ。
「ピンクとか…春らしい、可愛い色だっていいんじゃないかと思うんだが。お前によく似合うと思う。いや…淡い黄色も捨てがたい。…それを言うなら緑色だってきっと新鮮だ。そして可憐だ。ああ、オレンジみたいな元気な色もお前にはいいかもしれないな。黒も…シックで俺の好み…じゃなくて、違うお前が見られそうな気がする。しかしここは王道の白も…」
 そうしてユウリィが止めるのも耳に入らない様子で恍惚とした表情のまま延々話し続けたクルースニクのためにも、可愛くきれいになってやろうじゃないかと決めたのだ。

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047 やわらかい
 時々、どうしてだか人肌が恋しくなる事がある。そんな時はクルースニクの元へ駆け寄り、ぴったりとくっつく。最初は「どうしたんだ?」と不思議がる兄も、次第に何も言わずに抱き留めてくれるのだ。
「お前は…柔らかいな」
「えっ?」
「女の子の体だからかな。俺には無い温もりを感じるよ」
 壮大な口説き文句のようで、ユウリィはどきどきしてしまって。火照った顔を見られないようにと、ぎゅっと彼にしがみつくように抱き着いた。
 抱き返す、優しい腕に。またユウリィは甘えるのだった。

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048 天の川
 夏の夜。二人でベランダに佇んで、夜長を過ごす。最近はハリムも開発が進んできて、街中にも街灯が目立つようになってきた。闇はいつか、近いうちに消え去るだろう。クルースニクがふと夜空を指差した。
「天の川が、本来ならこの方向から見える筈なんだ」
「…でも、見えませんね」
「…街灯が増えれば星は見えなくなる。が、街灯が増えた事で人の暮らしが豊かになったのは賞賛すべき事だ。…覚えておけ、何かを手に入れる事は、何かを失う事と同義なんだ」
「はい…」
 兄が、何を思ってそんな台詞を口にしたのか。それは分からなかったが、兄に今も尚巣食う深淵を垣間見た気がした。

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049 ありがとう
 11月23日、いい兄さんの日。ユウリィのいい兄さんのために、今日は精一杯のごちそうを用意した。自分の誕生日でもないのにと驚く兄に、微笑んで説明をする。
「今日11月23日は、語呂で『いい兄さんの日』って言うんです。折角なので、わたしの日頃の感謝を形にしてみました」
「ユウリィ…」
「いつも、本当は感謝してるんです。ありがとう、兄さん。これからも、きっと迷惑をかけると思うけれど」
「何が迷惑なものか。俺の方こそ、お前に頼りきりで…」
「ううん、そんな事ない。わたしがいつまでも子供だから、兄さんを困らせてばかり」
「子供なのは俺の方だ。もはやお前無しでは生きていけない」
「わたしだって、兄さんなしじゃもう…」
 その後、夕食がすっかり冷めてカチカチになるまで、お互いの賞賛大会は続いたという。

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050 ふたり
 さらさらな髪に触りたい、と言われて。断る理由も無かったので、ユウリィはクルースニクに梳らせていた。すっ、すっ、とキューティクルの細やかなユウリィの髪は、櫛に引っかかる事はまず無い。
「きれいな髪だな」
 息さえ届きそうな程、それ程背後の兄が近くて。首元にかかりそうな声や息や悩ましかった。
「ありがとう…ございます」
「昔はよくこうやって結んでいたものだ。懐かしいな」
「もう、昔を振り返るのは止めて下さい。わたしだってもう、あの頃と同じじゃないんですから」
「そうか? …俺は時々今も、お前が昔も今も変わらない事にほっとするよ」
「兄さんだって、あの頃とちっとも変わってないのに」
 今も昔も変わらず、二人の世界は二人だけのもの。昔話で盛り上がるのが、その証拠。

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051 くちづけ
「いってらっしゃい」
「…ああ、行って来る」
「なるべく早く、帰って来て下さいね」
「分かってる」
 交わすのは、いってらっしゃいのキス。言うまでも無いが、これとは逆におかえりのキスのある。ラブラブ新婚夫婦のようなやり取りを、しかしもう随分前からの習慣なものだからお互い照れもせずやってのける。
 隣に住む本物の新婚夫婦が、ラブラブっぷりについて「あそこの兄妹には敵わない」とこっそり思っている事など、無論当人たちは知る由も無い。

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052 手紙
 仕事が終わりクルースニクが帰って来ると、いつもいる筈のユウリィの姿が無かった。テーブルの上に残された手紙に、彼の足は竦み内臓から冷えていく感触を覚えた。この前ユウリィと一緒に見たドラマの中では、亭主に愛想を尽かした女性が「実家に帰らせていただきます」という書置きを残して消えてしまったのを思い出したのだ。その事を思い出しぞっとした。気が急く。手紙を掴み取れば、それにはこう書かれていた。
『隣のおうちにお邪魔になってます。夕食までには帰ります』
「…な、何だ…そういう事か…」
 逃げられる亭主の気持ちがほんの少し分かった気がした、兄だった…。

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053 おやつ
 料理全般が、ユウリィは得意だ。単なるご飯ものから、それこそお菓子作りまで。たまにはと拵えたドーナツを皿の上に載せ、ユウリィはリビングにいるクルースニクに味見させようとした。
「兄さん、あーんして下さい」
 逆らう事なく口を開けるクルースニクに、ユウリィはドーナツの欠片を放り込んだ。もぐもぐと無表情に咀嚼する兄の、感想をじっと待つ。
「…美味い」
「本当ですか? 良かった!」
「ただ、その…味見させる度毎にこれをさせるのはさすがに止めてもらいたいんだが…」
「『あーん』をですか? どうしてですか? …楽しいのに」
「そ、そうか、…楽しいのか…いや、それなら俺は…」
 どうあっても兄は妹には勝てない、という法則がここにも適応されている。

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054 散歩
 日曜日には、空いた時間に散歩に外に出る事もある。並んでゆっくりと歩く時間は、心地よいものだ。ユウリィのために、若干速度を落として歩いてくれるクルースニクにも、言葉には出さないけれど感謝している。
 ふと、兄の右手が空いているのを見つけて、ユウリィは飛びつくようにその手を取った。
「…ユウリィ?」
「兄さんの右手が空いていたから、今はわたしだけの右手になってもらいます」
 彼の腕に寄りかかるようにして、歩く。クルースニクは特に意識した様子も無く、そのままの速度で歩き続けていく。
 たまには。このぐらい密着して過ごすのも悪くない。

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055 花火
 花火セットを買ってきて、庭でやってみる事にした。街で開かれる夏祭の締めの花火大会も好きだけれど、個人で楽しむ用の花火も風情があって好ましい。
 二人で色取り取りの世界を作り上げていく。
「きれいですね、兄さん」
「ああ、そうだな、…けれど、俺にとってはお前の方が…」
「? 兄さん、花火の音で聞こえません。何て言ったんですか?」
「いや、いいんだ」
 赤い花火に照らされた所為か、兄の顔は心持ち赤いような気がした。

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056 さらさら
 さらさらと水の流れていく川辺にて。ユウリィとクルースニクは子供っぽく水遊びに興じていた。子供の時分にこういった事で遊べなかった分、熱心になって遊んでしまうところが、妹にも兄にもある。熱心になりすぎて足元が狂ったユウリィは、つるりとひっくり返る自分自身を知覚した。それを見て慌てて駆け寄った兄共々、大いに水を被って濡れ鼠になる。
「に、兄さん、ごめんなさい」
「お前が無事だったのならそれでいい。気にするな」
「だけど」
「…それでも気にする、というのなら、じゃあ家に帰ったら一緒に風呂に」
「それはお断りします」
「…」
 いくら仲良し兄妹と言えど、それは受諾出来ない。

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057 家族
 前を行く家族連れを見て、知らずユウリィは愚痴のようなものを零していた。
「…いいな…」
 肩車されている少年と、屈強そうな男性と、それを微笑みながら見つめている女性と。完成された形がそこにはあった。『お父さん』も『お母さん』も、自分には分からない。…少年が羨ましかった。
「どうかしたのか、ユウリィ?」
 隣から呼び掛けてくる声に、ユウリィは「ううん」と返事した。
「何でもないです、大丈夫です」
 お父さんもお母さんも自分にはいない。これからも一生理解出来ない感覚であり存在であるだろう。けれど自分には兄がいてくれた。昔も、今も。そしてこれからも、出来ればずっと傍にいてほしい。…傍にいたい。
 密やかな望みを、けれど今は笑顔の下に隠して。

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058 背中合わせ
 夜中にふとした弾みで目覚めたクルースニクは、自分と妹とが背中合わせの状態になっているのに気が付いた。眠る時には向かい合っていた筈なのに、寝返りを繰り返すうちこうなってしまったらしい。妹はともかくとして、自分は常に妹の方向を見ていないと! と変な使命感に燃えるクルースニクとしては、この事態は黙っていられない。即座に寝返りを打つと、ユウリィの方を向いた。
 …こちらを見てくれない背中は、何となく寂しい。かといって彼女を無理にこちらに動かすのも、起こしてしまいそうで悪い。
 結局クルースニクは、その夜が明けるまで悶々と悩み続けたトカそうでなかったトカ。

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059 海辺
 ぽちゃりと、足先を水に浸す。予想よりも冷たい海水に、小さく声を上げる。
「…ひゃっ…」
「だから言ったんだ、まだこの季節では、海には入れないだろうと」
「だから…足だけにしたんですけどね…」
 脱いだ靴を両手でぶらぶらさせながら、ユウリィは打ち寄せては遠ざかる波に足を絡ませる。こうやって、海でゆっくりするのも初めての事で。はしゃがずにはいられなかった。
「昔…あの時の仲間たちと、海に行った事があります。だけどあの時は、走り抜けるだけで、楽しむ暇なんて無くて。今こうしていて、一緒に過ごせるのが兄さんなんて、わたしはとても幸せです」
 その言葉に、心底嬉しそうにクルースニクは微笑んで。ユウリィに倣い、靴を脱いでぽちゃりと足を浸すのだった。

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060 ぬくもり
 ソファに並んで座っていて。気が付くと、妹が隣で健やかな寝息を立てていた。本を読んでいて今まで気が付かなかったのだが、肩に重みがある。そろそろ腕が痺れそうな頃合だったが、しかし、だからといってそのぬくもりは払いのけられなかった。
 その仄かな温かさに、兄は微笑みを零した。
「…かわいいものだな」
 時々こうして、彼女の寝顔を眺めてはうっとりと溺愛しているのは内緒の話だ。

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