穏やかな100のお題61〜80 |
注:ED後かつ兄帰還後・同居設定・舞台は全てハリム 全て超SSSで兄と妹がひたすらラブラブしているだけです。001は設定説明。 ------------------------------------------------ 061 花畑 「わあ…!」 そこに辿り着くと、ユウリィは感激のあまり感嘆の声を漏らした。 無限に続くと思われる花畑。突然兄に「俺についてこい」と言われて従ってみれば、この美しい自然の風景に出会ったのだ。 「とっても素敵…、ここに連れて来てくれてありがとうございます、兄さん」 「いいんだ。お前の喜ぶ顔が見たかっただけだから」 「兄さん…」 「ユウリィ…」 花畑に思う存分うっとりする筈が、気付けば兄の姿しか見えていないユウリィなのだった…。 ------------------------------------------------ 062 指切り 「今日こそは、早く帰ってきてくれますよね?」 朝。ユウリィは胡乱気な視線を兄に向けた。 「昨日は悪かったと思っている…だが…」 昨日、付き合いだとかで飲みに行ったらしいクルースニクは、夜中にべろんべろんになって帰って来たのだった。よっぽど閉め出してやろうかと思いました、とユウリィは呟く。観念したのか、「分かった…」と唸るクルースニク。 「本当ですか? だったら、指切りで約束して下さい」 無理に彼の指を合わせて、指切りをする。約束したからには、指切りをしたからには、絶対に守ってもらわないと。 ------------------------------------------------ 063 夢うつつ 眩しいのは、朝日だ。もうそろそろ、起きなくては。体がまだ寝ていたいと強情に主張するのを無理に押し通し、ユウリィは目を開けようとした。 「…?」 微かに開けた目の先には、肌があって。何かな、と思っているうちに更にそれが近付いてくる。額に何か、温かいものが触れて。それ、が何であるか知る前に、耳元に声が届いた。 「ユウリィ…」 優しく自分を呼ぶ声。とろとろと覚醒に向かいながらも、夢うつつのままその言葉を受け止めた。その声音が、あまりに甘美だったからもう少し浸っていたかった。 ------------------------------------------------ 064 天使 「天使のようだな、お前は」 突然に頭上から降ってきた言葉に、文字通りユウリィは硬直した。 「…兄さん?」 今時流行らない口説き文句だが、彼の真面目な顔つきを見るにおそらく真剣に褒めているのだろう。急に言われて戸惑う気持ちもあるものの、彼の発言が嘘でない事は自分がよく知っているから嬉しい気持ちもある。けれど。 「あの…兄さんの気持ちは嬉しいのですが…人前でそんな事を言うのは、さすがにやめてほしいです…」 市のど真ん中で、人もたくさんいるのに。彼には妹しか目に入っていないとはいえ、さすがに気恥ずかしかった。 ------------------------------------------------ 065 小さな ぽん、ぽん、と頭をユウリィの頭を撫ぜるクルースニク。既に癖になっているのか、手持ち無沙汰の時には大体ユウリィの頭に手がいっている。ひたすらなでなでされるのに、慣れっこになっているユウリィはされるがままだ。 堪りかねれば注意する事もあるものの、「いつまでもお前が小さいままでいると、思ってしまうようだ」とか何とか言われてしまい、ついでにちょっとしょんぼりしてしまうので、結局折れてしまうのだ。 正直を言うと、彼に撫でられるのも好きだから。だから、結局強くは言えないのだった。 ------------------------------------------------ 066 やさしい 遠くを見ながらぼんやりしていると、わけの分からない寂しさのような気持ちにしばしばユウリィは支配される。隣で同じように遠くを見ている兄が、いつか自分でない人間を見るかもしれない。いつか、自分から離れてしまうかもしれない。自然の摂理、として。 そんな事を考えるとたまらなくなるのだ。ずっとずっと傍にいて欲しい。けれどそれが、我が儘でしかない事も知っているから。寂しさを紛らわすため、ユウリィはそんな時ぎゅうとクルースニクにしがみ付く。理由が分からずとも、抱き返す腕は優しくて。 優しくて、切なくなる。 「兄さんは…ずっと、ここにいてくれますよね?」 「何を当たり前の事を訊いているんだ。そんな事、決まっているじゃないか」 彼に本意は、きっと伝わっていない。それでも。 やさしい彼が、少しでも長く傍にいてくれる事を信じて。 ------------------------------------------------ 067 照れ隠し 「兄さん、大好きです!」 いつもの習慣で、そう愛を告げて。ぎゅっと抱き着けば。日常であれば「俺もだ」と返ってきて、そして大人の腕で抱き締め返してくれるのが常であるのに。 なぜだか今日は、それが無かった。不思議に思って見上げれば、そこには珍しくやや赤面した様子のクルースニクがいた。照れ隠しなのか、口元を隠している。 「…兄さん?」 「いや…あの…」 真剣に照れているさまが、何だか年上なのに可愛くて。さらにユウリィは彼をきつく抱き締めた。 ------------------------------------------------ 068 幼子 「お前にもあの頃があったんだ…」 市に買い物に出かけた折、遠くにいる子供たちを見掛けてクルースニクにはついそう呟いた。 「わたしは逆に、兄さんの子供の頃を見てみたかったです」 いつも、自分は追い掛ける側。それが少し寂しい。兄がお子ちゃまだった頃に立ち会いたいものだ。自分が妹でなく姉だったのなら、多分今頃そうなっていただろうに。 幼い頃の兄にも、会ってみたかった。きっと、やっぱりきれいな顔立ちなんだろうな。そう思うと、つい頬が緩んだ。 ------------------------------------------------ 069 手 兄の掌は、大きくて安心感がある。そして握っていると落ち着くとともに、言い知れぬドキドキ感も感じるのだ。 「…どうした?」 「い、いえ、何も」 いつもの散歩。だけどこうして、手を繋いだまま歩く事には少しばかりの抵抗もある。くっつきすぎなんじゃないのかな、とか。兄妹なのに、とか。これを見られたら周りからからかわれるだろうな、とか。 だけど。思う存分手を繋いでいられるのが、やっぱり嬉しくて。ユウリィははにかんで、しっかりと兄の手を握り直した。 ------------------------------------------------ 070 安心 ソファに二人で座ってくつろぐ時間が、ユウリィは好きだ。こうしてのんびりと、時を過ごす。する事が無くても、ただ隣に兄がいてくれるだけでなぜだか優しい気持ちになれるし、心から安心出来るのだ。コーヒーを飲んだ時のような、ほっとする瞬間。それが、兄の肩にこうしてもたれていると訪れるのだ。 「…ユウリィ?」 「…ん…」 「もう少し、こうしていようか」 「はい」 異存は、勿論無かった。 ------------------------------------------------ 071 ココア 少しだけお湯を入れて、ぐるぐるとかき回す。しつこくぐるぐるすればするほど、ココアは美味しくなるから。真剣な眼差しでぐるぐるし続けているユウリィを目に留めたクルースニクは、微笑みを漏らして呟いた。 「好きなのか?」 「え?」 「ココアが」 「はい、好きです…って、兄さんも飲みたかったですか? でしたら、今作りますけど…」 「いや、そうじゃないんだ」 「…?」 甘くて美味しいココア。けれども、今この胸にある気持ちは、きっとそれよりずっと甘い。 ------------------------------------------------ 072 しゃぼん玉 しゃぼん玉がふわふわと飛んでいくのを、ユウリィは窓の外から眺めていた。何処の子供が作ったものなのか、小ぶりで今にも割れてしまいそうなのに形を保ったまま上へ上へと昇っていく。 そういえば、シャボン玉遊びはやった事がない。近所の子供たちがしゃぼん液をストローに付けて吹いているのは見たが、その輪にはさすがに加われなくて。 「…そうだ!」 兄に相談してみよう。それで兄が一緒に遊んでくれると言ってくれたら大成功。キットだけ買ってくれたら成功。お金だけくれたら失敗。 多分兄は遊びに付き合ってくれるだろうと思う。何を差し置いてでも。何と言っても妹の頼みをあの人が断れるとは思えない。 (兄さんの好意を利用してるのかな、わたし?) そうは思うけれども――そんな兄を愛しく思う自分自身が、ここにいるのだった。 ------------------------------------------------ 073 お嫁さん 「わたし、兄さんのお嫁さんになります」 高らかにそう宣言すれば、クルースニクは手に持っていた雑誌をばさりと取り落とした。だらしなく口を開けたまま、こちらに詰め寄ってきて、ユウリィの肩を痛いくらいに掴む。 「ユウリィ…よく言ってくれた…!」 その目は異様に輝いている。尋常でない程の輝きぶりだ。 「今の法律ではお前と結婚出来ない事は百も承知…、だがッ! 俺と共に生きる事を、願ってくれるなど、これ程の喜びは無い。いつかきっと、それを塗り替えてみせる。だから俺と一緒に生きると、どうかもう一度言ってくれないか…!」 その熱意の篭った眼差しに、まさか冗談を言ったなどとは言い出せないユウリィなのだった… ------------------------------------------------ 074 縁側 縁側で食べるアイスは美味しい。露天で買ってきたバニラとチョコのアイスを、二人で突付いた。夕方のこの時間になれば、多少は過ごし易くもなる。 「兄さん、そっちのアイスも一口食べてみたいです」 クルースニクは自分のスプーンでバニラアイスを適量掬い取ると、ユウリィの口の中に放り込んだ。バニラアイスは甘さ控えめで、ほんのりと冷たくて美味しい。それよりも、自分から注文した事とはいえ、間接キス状態になってしまった事に戸惑いを覚えた。 「…どうした?」 「い、いえっ、何でもないです」 火照った顔を冷やすためにまた一口アイスを口に入れれば、きぃんと冷えていくのが分かった。 ------------------------------------------------ 075 大好き いつも、いつも、自分からばかり。――大好き、という一言を告げるのは。たまには兄からも言ってほしい、と望むのは我が儘なのだろうか。兄からの愛情は確かに感じている、抱えきれない程の自分への愛に満ちているのには、気付いている。けれどそれを言葉にしてほしいと、常々感じているのだ。 「どうして、兄さんは好きって、言ってくれないんですか?」 「…ん?」 「いっつも、わたしからばっかりだなって、そう思って…」 「馬鹿だな。言葉にしなければ、分からないのか」 「どうせ馬鹿です。…もう、いいです」 「拗ねるな。…そうか、分かった、言葉が無い事でお前が不安がるなら、それなら行為で示すとしよう」 「え…っ、って、ちょっ、兄さんッ?!」 …そのままひょいっと抱え上げられると、寝室に直行されてしまった、妹なのだった。 ------------------------------------------------ 076 プレゼント プレゼントだ、と言って渡されたのは赤い薔薇の花束だった。おそらく花屋で買い求めたのだろうが、今時花屋で薔薇の花束を買うなんて古典的な事をする男性がいるとは思わなかった。 「あ…あの…?」 「赤い薔薇の花言葉は『情熱』というと、知っていたか」 「ううん…だけど、それが一体…?」 「俺のユウリィへの気持ちが、情熱そのものだと分かってほしくて、だから買ってきた」 「はあ…」 正直反応に困って、花束をじっと見つめた。薔薇は勿論好きだし、こんなプレゼントをもらって嬉しくないと言えば嘘になる、けれど…。生真面目な顔でこちらを見つめるクルースニクに、どんな反応を返したらいいのか分からない。 微妙な視線を送ったら、それに全く気付いていなさそうな満足気な視線とぶつかった。 ------------------------------------------------ 077 満月 今更満月なんて出ても、もうどうしようもない。 今日は朝からずっと雨だったのだが、夜12時を回った頃にようやく雲が立退き、満月がつやつやと輝いていた。今更晴れられても、洗濯物は乾かない。パジャマを洗ってしまったユウリィは、手元に乾いているパジャマを持っていなくて、仕方なしにクルースニクのお古のシャツを着て眠る事になった。袖がぶかぶかなのが、ちょっと面白い。 「ユウリィ…」 クルースニクが鼻血を抑えながらユウリィに興奮気味に語り掛ける。 「頼むから、下に何か着てくれないか…」 「下? …ぱんつなら穿いてますけど?」 「ぱっ…」 「きゃあッ、兄さんッ?!」 クルースニクがその単語を発する前に、彼は鼻血を出しながら後ろにぶっ倒れた。 ------------------------------------------------ 078 しぐさ ソファで雑誌を読みながら寛いでいる兄。彼の隣の席を確保して尋ねた。 「何を読んでいるんですか?」 「ラブラブパラダイスだ」 恥ずかしげも無く即答する兄に、答えをもらったユウリィの方が色々深読みして赤面してしまう。 「それ…何の雑誌ですか…?」 「聞きたいか? なら、詳しく聞かせてやろう」 「え? あの…」 どうやら、クルースニクはユウリィに話したくて堪らなかったらしい。いつになく饒舌に、その怪しい表紙(クルースニクの右手に隠されてしまってはっきりとは分からないが、半裸の男性と女性がやたら密着している。しかも女性の方が何やら悩ましい仕草をしている)の雑誌「ラブラブパラダイス」について喋った。何でも好きな人との愛の溢れる生活を送るための雑誌、とかで…。彼にしては珍しくご機嫌な様子で喋ったあと、クルースニクは「よし!」とはりきって声を出した。 「よし、実践しよう。ユウリィ!!」 「実践って何ですか!」 照れる間も無く、ベッドに連れ去られたユウリィなのだった。 ------------------------------------------------ 079 水玉 この前買ってきた水玉のクッション。ソファの上に置いておけば、物珍しげなクルースニクの緯線がクッションを捕らえていた。 「買ってきたのか?」 「はい。可愛くて、つい衝動買いを」 そうか、と言って口元を緩める兄に、「いけませんでしたか?」と問うた。 「そうじゃないんだ。ただ、俺なら絶対に選ばない柄だろうから。…この家がどんどん、お前色に染まっていくな、とそう思ったんだ」 「わたし色に…」 「このままだと、俺もお前色に染まってしまうかもしれないな」 口には出さなかったが、思わず唸ってしまったユウリィだった。 (多分もう、兄さんはわたし色に染まってると思います…) ------------------------------------------------ 080 田舎 「たまにはここ以外の場所で暮らしてみたいと、そう思った事はあるか」 そう尋ねられて、分からない、といったふうに首を傾げるユウリィ。なぜそんな事を訊くのか。 「例えば、ハリムではなくポートロザリアだったらもっと違った暮らしが出来るのではないか。そう思ったんだ。ここよりも良い暮らしを、お前にさせてやれるかもしれないと思ったら、つい…」 「わたしは…」 考え考え、その言葉を口にした。 「わたしは、兄さんと一緒に暮らせるなら何処でも構いません。今の暮らしに、わたしは満足してます。確かに、ロザリアはここよりもっと開けてるかもしれません。ここより賑やかかもしれません。でもわたしは、過ぎた幸せなんて怖いだけ…これでもう、十分なんです」 「あくまでも控えめに生きていきたい、と言うのだな」 「はい。…それじゃだめですか?」 「いや。お前がそれを望むなら、ここで生きよう。お前がそれでいいのなら、俺もそれでいいんだ」 ハリムは田舎かもしれない。暮らしにくいかもしれない。それでも、ユウリィにとっては兄がいてくれるだけでそこは楽園に変わる。 ------------------------------------------------ |
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